研究課題/領域番号 |
21K01049
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
大呂 興平 大分大学, 経済学部, 教授 (50370622)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 牛肉 / 貿易 / フードシステム |
研究実績の概要 |
令和3年度は,研究期間の1年目にあたり,世界の牛肉生産・貿易の変化とその背景を,既存の統計や文献をもとに把握した.本年度はオーストラリアの2000年代以降の牛肉生産・輸出に特に焦点を当てて,その動態を,1)生産現場における生産性をめぐる競争,2)牛肉をめぐるフードシステムレベルでの競争,3)牛肉貿易のルールや制度をめぐる国際政治レベルでの競争という,主体の異なる多元的な競争に注目して把握することを試みた.結果の概要は下記のように整理される. 1)オーストラリアの肉牛生産は土地使用的であり,生産を担う個別経営の規模は既にきわめて大きい.近年では規模拡大を通じた生産性向上よりも,個体管理の変革を通じた牛の受胎率や増体の改善といった生物学的改善を通じて生産性向上が実現されてきた.ただし,干ばつリスクに常にさらされて輸出余力は不安定なままであり,南米の生産国に対して優位性を持つに至ってはいない.2)その川下では,世界的な牛肉需要の高級化とともに穀物肥育を担うフィードロットが急成長して,また,食肉加工部門の拡大が進んできた.しかし,この部門は資本集約的であり,国際的な牛肉貿易を担うブラジルやアメリカ合衆国,中国等の多国籍企業による買収や経営統合が進み,オーストラリアのフードシステムは,多国籍企業のグローバルな牛肉生産・調達の論理に強く規定されて不安定化している.3)オーストラリア政府は,1990年代より自由貿易を標榜してWTOやFTAによる貿易障壁撤廃を強力に進めてきたが,2010年代後半より中国が最大の輸出先に浮上するとともに,政治的対立を背景として牛肉輸出が不安定化しており,中国に融和的な南米の牛肉輸出国に後塵を拝している. 以上のように,各国の肉牛部門の生産・貿易は,多数の主体による多元的競争の帰結として大きく変動しており,これらの体系的な分析が重要となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はオーストラリアを中心に統計や図書資料による分析を中心に進めた.他地域における分析も進め,多元的競争を俯瞰的に把握することが今後の課題として残されている.
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今後の研究の推進方策 |
できる限り海外での現地調査を行い,主要国であるアメリカ,ブラジルを念頭において,牛肉の生産・貿易をめぐる複雑な変動を多元的に把握する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの拡大により,当初予定していた国内外での調査や資料収集を見合わせ,もっぱらウェブサイトでの資料収集に注力した.新型コロナウイルスが落ち着いてから本格的に現地調査を実施できるよう,次年度使用に繰り越した.
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