2023年度は、引き続き長野県長野市小田切地区上宮野尾区麻庭と東京都八丈町末吉地区宮裏地区と宮ケ路地区において、現地調査により、世帯調査、民俗調査、介護及び災害時の伝統的な互助の取り組みと背後にある考えを中心にインタビュー調査を進めた。 人口減少と過疎、高齢化が著しい山間部のムラである麻庭では、7次に渡る現地調査を行ったが、予備調査で23戸と把握していた居住戸は17戸まで減っており、内3戸が転入戸で、調査対象となる伝統的な居住戸は14戸であった。同姓の家が大半であるが、系譜関係は一つにつながらず、複数の小規模な同族によって構成されるムラのようにみえるが、財産規模、墓の配置、日常の交際や互助のあり方など、本家と分家の力関係に明確な差は認められず、仲間的な付き合いを行っている。姻戚関係にある家同士も多く、ムラ中が親族に近い状態であり、自動車が普及する以前、特に積雪期である冬季には、ムラの壮健な男たちが集まって、病人を近隣の医療機関に運ぶ互助が機能していたとみられるが、介護については、各戸が自前で対応する慣習で、その家の主婦と嫁の役割が大きかった。 一方、離島である八丈島に位置する末吉では、今なおインキョ制度が色濃く残り、高齢者は独立した世帯を維持しようとする傾向が強く、よほど状況が困難にならないと、子ども夫婦や孫の世話を受けようとしない。むしろ施設に入所し、介護や治療を受ける傾向がうかがえる。子どもはそこに連日見舞いなどに訪れる。また、在宅で過ごす場合には、近隣や隣接地域などに嫁出した実の娘が日常的に訪ねてきて、要支援・介護者である親の面倒を見る傾向も把握された。近隣の懇意な仲間で宿となる家に集い、互いの安否や健康状態を確認しつつ、楽しく過ごす慣習も息づいており、介護にも伝統的な人付き合いや互助の伝統が強く反映していることが判明し、麻庭との地域性の違いを把握することができた。
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