最終年度の2023年には8月下旬から9月初旬まで、また、10月下旬から11月初旬までの計2回、中華人民共和国への外国出張(現地調査)を実現することができた。 まず、夏の外国出張では北京市の清真寺および牛街(回族集住区のひとつ)を調査地とし、主に聞き取り調査および参与観察を実施した。今回の外国出張では、ハラール産業従事者(主に屠畜業者、精肉販売業者)、清真寺関係者に対して聞き取り調査を実施し、社会主義改造以後のハラール産業の国営化および改革開放政策導入後のハラール産業復興の実態に関する具体的な一次資料を収集し、現代中国におけるハラール産業が抱える問題(例えば、ハラール飲食店における酒類の提供、非ムスリムの漢族によるハラール飲食店の経営)に対する理解を深めることができた。 次に、秋の外国出張においても北京市の清真寺および牛街を訪問し、清真寺関係者および牛羊肉販売店、食肉加工場(兼屠畜場)の経営者に対して聞き取り調査を実施し、改革開放政策の導入後、回族の伝統的な屠畜業がどのように工業化(工場化)され、ハラール屠畜の伝統技術が変化したのかを把握した。中華人民共和国の建国以降、伝統的な生業は集団化・工場化・機械化が進められ、回族の伝統的な屠畜業も社会主義改造の標的となった。経済自由化政策以降、屠畜業の工場屠畜は一層推進されているが、伝統的な屠畜技術は清真寺の宗教職能者を中心に継承されており、屠畜それ自体の民俗知は細々と維持されており、中国政府によっても容認されている。 このような社会史的視点をつうじて、本研究課題では、現代中国の少数民族社会において民俗知の担い手が社会主義経済に翻弄された一方、経済自由化政策の導入後、民俗知の継承が新たな世代によって継承され続けていることを解明することができた。なお、研究成果は紙媒体(冊子)として刊行した。
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