本研究は、日本における離婚紛争とその解決の実態を総合的・実証的に、かつ定量的に解明しようとする学術研究である。日本における離婚については、紛争解決という観点からの体系的かつ実証的な実態調査はこれまでほとんどなされてこなかった。そのため、定量的な統計データが不足している。特に子どもが絡む養育費や面会交流の定め方・履行方法については、長年の社会問題となっている。本研究では、実態を解明することで、離婚紛争解決システムの実証的基盤を構築することを試み、円滑で効果的なシステムのあり方についての提言を目指す。2021年度には、過去20年間の子ありでの離婚経験者3000人を対象にオンラインでの質問票調査を実施した。他機関が過去に実施した類似調査等と比べると、最も大規模な子ありでの離婚経験者調査であり、かつ過去20年間の経年変化の解明を試みた点に特徴がある。調査では、親権・監護権、養育費、 面会交流などの条件についての具体的な合意内容、交渉過程、離婚調停の有無、弁護士の関与の有無、実際の履行の有無などについて網羅的に質問した。2022年度に引き続き、2023年度も上記調査で得られたデータの分析を実施した。2023年度の具体的な研究成果としては、コロナ禍における紛争解決関連の論文1本を執筆したことに加えて、関連する研究成果について、コーク大学(アイルランド)での国際ワークショップやアジア法社会学会(Asian Law and Society Association)において、国際的な研究報告も行った。研究期間全体を通じた主な成果は、質問票調査に基づく詳細な定量的データに基づいて、養育費と面会交流の取決め率の実態を解明できたことである。なお、本研究で解明された実態を踏まえての法政策的な提言については、今後のさらなる研究課題としたい。
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