研究課題/領域番号 |
21K01099
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂口 一成 大阪大学, 大学院法学研究科, 教授 (10507156)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中国法 / 比較法 / 「刑事」概念 / 「刑事」の本質 / 民刑峻別 |
研究実績の概要 |
刑事・民事・行政の区別・関係は法の基本観念・法学の根幹問題であり、また国・時代により多様であることから、外国法認識の出発点でもある。本研究は刑事に焦点を合わせ、中国の《刑事》的なるものとは何か、およびなぜそうなっているのかを実証的・理論的・歴史的に解明することを目指す。 4年計画の3年目である2023年度前半は、前年度に引き続き「犯罪」処理実務(観念的には犯罪が成立しうるが、結果的に犯罪とされなかった場合も含む)における《刑事》上の措置およびそれと《民事》・《行政》の区別・関係の実像の解明を進めた(上の実証的解明に直接つながる)。具体的には故意傷害事例(前年度の継続)および交通事故事例を素材に、主に次の3点の制度・論点に着目した(①②は前年度の継続)。①刑事和解制度(対象は両事例)。これは犯罪に起因する損害の回復に関する刑事事件の被疑者・被告人と被害者との間で和解が成立すれば、刑事上の寛大な取扱いをもたらし得る、という刑事訴訟法上の制度である。②公安機関(警察に当たる)による傷害事件の調停。傷害は程度が軽ければ、犯罪ではなく、治安管理処罰法違反事件(行政処罰の対象となる行政事件)となる。限界事例においては和解・調停の成立・履行により、刑事責任か行政責任かが変わり得る。③最高人民法院が2000年に出した交通事故罪(刑法133条)をめぐる「司法解釈」、およびそれに対する批判論。最高人民法院が交通事故の加害者の賠償できない額が一定額に達する場合には同罪が成立するとしたのに対して、学界を中心に民事責任を刑事責任に転換としたとする批判論が有力に主張されている。 2023年度後半は、比較法的視座から、特に修復的司法論に着目し、現代中国の《刑事》的なるものを位置づけると同時に、中国法史および旧社会主義法の先行研究から、その歴史的形成過程を辿り、その背景を解きほぐすため、考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献・事例の収集・読解・整理は基本的に当初の計画通りに進めることができたと考えられる。なお、中国で研究活動を行うことのリスクが顕在化したことから、現地でのヒアリング調査および資料収集は実施できなかった。もっとも、申請時点でこうした事態はある程度織り込んでおり、インターネットを活用して(例:ビデオ会議、ネットを介した現地書店との取引)、一定程度その不足を補うことができた。 以上のことから、全体としてはおおむね順調に進展させることができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も基本的に研究計画に沿って進めていく。なお現地調査については、少なくとも研究活動がスパイ活動とみなされるリスクが高まっていることから、実施の見通しは立っていない。特段の支障なく中国に渡航できるようになるまでは、これまでのようにインターネットを活用して不足を補っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査のための外国旅費を使用しなかった一方で、それを補うために中国語文献の購入を当初計画より手厚くした結果、残額が生じた。この分は2024年度の外国旅費または文献購入費に充てる。
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