研究課題/領域番号 |
21K01107
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
和仁 かや 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90511808)
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研究分担者 |
梶嶋 政司 九州大学, 附属図書館, 助教 (80403939)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 日本法制史 / 金田平一郎 / 近世債権法 |
研究実績の概要 |
本研究は、前近代日本の債権法制及び慣習に関する学問基盤の構築とそのための基礎的資料の整備とを目的とする。とりわけ、かかる研究の先駆者である金田平一郎が、戦前期九州帝国大学を拠点として蒐集した近世法制史料群に焦点を当て、未整理史料の目録整備やデジタル化を図りつつ研究を深め、関連する地域史料の活用可能性をも模索するものである。 本研究計画の3年目かつ中間地点でもある本年度の主な実績を、以下2つに分けて挙げておく。まずは、2023年6月に法制史学会(会場:早稲田大学/非会員も参加可)、就中ミニ・シンポジウム「法制史学資料の来し方と行く末ー紙媒体資料・蔵書の継承に向けてー」を、これまで得られた成果と知見に立脚して実施し、その一部を広く示したことである。アーキビストとライブラリアンそれぞれの立場からの問題提起を踏まえ、本研究の根幹に関わる歴史資料のあり方を抜本的に検討しようとするこの企画には、法制史学のみならず多様な分野からの参加者があり、これまでの本研究の方向性についても改めて確認したと同時に、今後に向けたさ らなる重要な示唆をも様々な視角から得ることが出来た。 2つ目に、九州大学所蔵の法制史料に含まれる未整理分のうち、「大阪津村南之町内諸書付及控帳記録(現・大阪市中央区備後町及び本町)」について、研究補助者(RA)の助力を得て整理を完了し、その解題及び目録を公刊したことである。法制史料の主立ったものについては、これでほぼ整理・公開が完了したこととなったが、引き続き九州北部地域を中心とする一部未整理史料についても対応を進めた。また、かかる史料蒐集の拠点となった九州文化史の、とりわけ基礎的な蒐集活動が行われていた昭和10年代半ばから後半期にかけての事務日誌を翻刻・公刊した他、金田の学問遺産に少なからず影響を受けたと思しき法制史家たちの史料・蔵書等、関連資料についても調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、前年度までのコロナ禍の影響からはほぼ脱し、予定していた出張はもとより、出張を伴う他の研究者の助力等も比較的円滑に得られたため、研究計画開始時の遅れは、前年度に続いて、それなりに取り戻せた。上述した研究成果の一部を公表した学会についても、当初はオンラインをメインに考えていたものの、対面をベースにしたことで、より効果的な意見交換が出来たと考えられる。オンラインのコスト的なメリットは今後も積極的に活用し、対面でしか出来ない調査・撮影作業との腑分けを、引き続き心掛けていきたい。 他方で、学事暦や各種業務等との関係から、調査のためのまとまった期間の確保はなおも課題である。この点についても、オンライン手段の有効活用等をも取り入れつつ、引き続き対応を模索していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度も、これまで得られた知見について、さらに調査を進めると同時に理解の深化や視野の拡大に注力する。まずは、昨年6月に開催した法制史学会総会ミニ・シンポジウム「法制史学資料の来し方と行く末―紙媒体資料・蔵書の継承に向けて― 」を活字化・公表する。作業には既に着手しており、今年度もしくは来年度頭での公刊を目指しており、ここでの成果は本研究において、今後の大きな指針となる。 また九州大学附属図書館付設記録資料館・法制資料部門に所蔵されている歴史資料のうち、今年度は北部九州の地域的特性を強く反映した債権関係史料に重点を置き、大坂町文書との比較も念頭に、法制史を専門とする代表者(和仁)、及び歴史学を専門とし、とりわけ北部九州地域史料に通暁する分担者(梶嶋)とで協同して調査を継続する。その上で、かかる研究の重要なモデルを先駆的に提示した金田の手法をも踏まえて 多面的に検討手法を模索しつつ、江戸、大坂等他地域との比較をも視野に入れた分析を行い、北部九州地域における債権契約・慣習等の実態の抽出を試みる。同時に、金田文庫はもとより、その影響を受けた法制史家の旧蔵資料や、九州文化史資料部門が所蔵する関連史料等についての調査にも引き続き従事し、戦前の九州地域における帝国大学を軸とした学問・蔵書ネットワークに留まらず、戦後も視野に入れた資料状況につき立体的な再構築を図り、保全・修復や史料の翻刻紹介、デジタルデータ化とその公開作業も継続する。 なおこれまで進めてきた、法制史学分野において重要な基礎資料である法制資料部門所蔵資料の来歴や学問的性格の精査の成果は、論文としてまとめ公表する。 以上の遂行に際しては、史料保全の専門家や蔵書に詳しい図書館職員、さらには隣接諸分野の専門家を交えたオンライン検討会や研究会を開催し、引き続き適宜助言や助力を求める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は比較的予定通り進んだものの、2021年度、2022年度のコロナ禍の影響で、予定していた出張等が困難になったことにより、未だ総額としては使用額に差額が生じた状態にある。次年度にはこの出張の実施、また本研究による成果の一部を公表すべく、調査・論文執筆にかかる経費として使用する予定である。
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