研究課題/領域番号 |
21K01108
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧川 裕英 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (50251434)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 権威 / 政治的権威 / 民主制 / くじ / 移動の自由 / 国籍 / 植民地 / 契約主義 |
研究実績の概要 |
本研究は、政治的権威が正統性を持つ条件を探究する。本研究の核心をなす学術的「問い」は、自由で平等な社会において、政治的権威が正統であり、その権威的指令に従う理由が人々にあるといえるために、いかなる条件が充足されることが必要か、である。この問いに答えるべく、令和4年度は、大まかにいって、三つの作業を行った。 第一に、政治的権威が正統性を持つために、意思決定はいかなる方式で行われる必要があるかについて、検討を行った。その一つとして、民主的決定は政治的権威を持つか、持つとすればなぜかを見定めるために、多数決でない意思決定方式としてのくじ引き投票制の可能性について検討した。もう一つとして、政治的決定の影響が人によって異なる場合に、より大きな影響を受ける人により多くの票を配分する可能性を、特に世代との関係で検討した。 第二に、政治的権威が正統性を持つのは一定の領域内のみであるという政治的権威の領域性について、再検討を行った。その一つとして、カントによる植民地支配批判が、現在の移民問題にいかなる含意を持ちうるかを検討した。もう一つとして、政治的権威の領域性が外部から境界を越えて入ってこようとする人の移動の自由を制約しうるかを検討するとともに、既に境界を越えて入ってきたが政治社会に帰属していない人の権利を政治的権威は保障すべきかの検討も行った。 第三に、感染症のように人間の社会経済活動がリスクの拡大を招きかねない場合にどの程度のリスクを許容すべきか、こうしたリスクの許容可能性を政治的権威はどのような枠組みで判断すべきかについて、帰結主義(費用便益分析)と契約主義を対比し、それぞれのヴァリエーションを含めて比較検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において、令和4年度には二つの研究作業を行い、その成果報告を行うことを予定していた。 研究作業予定の第一は、政治的権威が正統性を持つための条件を提示することである。これについては、政治的権威の意思決定方法について検討を行った。民主的な意思決定方法の意義と限界を正確に見定めるために、単純な多数決方式と、くじ引きと多数決を直列で結びつけるくじ引き投票制を対比して検討した。また、決定の影響をより強く受ける人により多くの決定権限を付与する影響原理が、世代間の公平性を考慮するといかなる帰結を持つかを検討した。いずれも研究成果を公表し、前者は一般の読者にも届くような新書(共著)として、後者は大学生・高校生のも届くような入門書(共著)として、刊行された。 研究作業予定の第二は、権威論が現代社会に対して持つ含意を検討することである。これについては、移動の自由を保障すべき根拠と、政治的権威が持つ領域的管轄権が移動の自由を制約しうる根拠について検討を行った。その研究成果は、国際学会で報告すると共に、研究書(共著)として刊行し、国際学術論文としても刊行予定である。また、カントの植民地批判論を手がかりとして、いかなる国境管理制度が正当化されうるかを検討した。その研究成果は定期刊行物において公表された。さらに、感染症のように社会活動によってリスクが拡大するときに、いかなる判断枠組みでリスクの許容可能性を判断すべきかを検討した。その研究成果は、書籍(共著)として刊行予定である。 以上のように、研究計画における予定を順調に達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度、令和4年度は研究計画に従って、順調に研究を推進することが可能であった。そのため、最終年度となる令和5年度についても、研究計画に従って研究を推進していくことにする。具体的には以下の通りである。 第一に、政治的権威・正統性・統治権・政治的責務・政治権力といった基礎概念に明確な概念規定を与えて、概念間の相互関係を明確化する作業を行っていく。特に鍵となる政治的権威の分析とデモクラシーとの関係についてに研究を行い、一定の方向性を提示していきたい。幸いにして令和5年9月にはIVR Japan国際会議が千葉で開催予定であり、基調講演を行う機会をいただいている。その貴重な機会において、本研究の成果を報告し、そこでの批判的討議を通じて研究を進展させていく。 第二に、これまでに行った研究が現代社会に対して持つ含意を検討していく。幸いにして今年度は、政治思想学会(5月)、日本刑法学会(6月)、日本私法学会(10月)の学術大会において、研究報告を行う機会をいただいている。こうした貴重な機会において、政治的権威が正統に及ぶ地理的範囲である管轄権についていかなる根拠がありうるか、刑罰権力はいかなる根拠に基づいていかなる形態で行使することが許容されるか、株式会社の権限行使が正統に行なわれるためにはいかなる意思決定方式を採用すべきか、といった問題を論じながら、基礎研究の実践的含意を探求していく。こうした研究成果とともに、これまでの研究成果を随時公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張費を切り詰めることができたため、次年度使用額が生じた。逆に今年度は、コロナ禍も一段落となり、出張が当初計画よりも増える予定である。いずれにせよ、本研究の目的を達成するために、適切に使用していく。
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