本研究は、政治的権威が正統性を持つ条件を探究する。本研究の核心をなす学術的「問い」は、自由で平等な社会において、政治的権威が正統であり、その権威的指令に従う理由が人々にあるといえるために、いかなる条件が充足されることが必要か、である。この問いに答えるべく、令和5度は、大まかにいって、4つの作業を行った。 第一に、権威が正統性を持つための条件を検討し、その検討に基づいて、民主的意思決定が正統性を持ちうる条件を検討した。民主的意思決定の価値を、その手続に内在する価値に見出す見解と、その手続が結果として産出する価値に見出す見解とに区分した上で、前者だけでは民主的権威の正当化には不十分であることを示した。また同時に、権威主義が正統性を持ちうる条件についても検討した。 第二に、国家の正統性に関わる議論を、会社に応用した。具体的には、株式会社において株主総会の決定が正統な権威を持つ条件を、現代の民主制論に基づいて検討した。民主的意思決定は正解を認識しやすいという価値を持つという認識民主制論を参照しながら、株主総会の決定権限が及ぶべき射程について、検討を行った。 第三に、政治的権威が正統性を持つのは一定の領域内のみであるという政治的権威の領域性について、再検討を行った。国家の領有権に関する従来の議論を整理・精査した上で、国家の管轄権を正当化する論拠について検討を行い、国家の正統性の基盤には、領域に対する権利ではなく責任があるという示唆を得た。 第四に、国家による強制である刑罰の正統性について検討を行った。罪刑法定主義、刑法の謙抑性、私的刑罰の禁止といった刑法の基本原則は、通常刑罰の制約原理としてのみ理解されているが、実は刑法の基本原則の背景には共和主義が隠れており、その共和主義が刑罰の正当化根拠ともなり得ることを示した。
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