本研究の目的は、法とは個人の権利や正義といった原理であり、法解釈とはかかる道徳的原理の実現であるとする道徳的解釈論の意義と可能性について考究することにある。近年、アメリカ合衆国では、法とは実定的なルールであり、法解釈とはルールに定められた立法者意思の解明であるとするオリジナリズムが展開する。本研究では、これら二つの対立的な法解釈論的な立場を法理論・法解釈論的に比較・考察した。 本年度は本研究の最終年度にあたり、令和3年度と令和4年度の研究を踏まえて、研究全体を取り纏めて、その研究成果を公表した。本研究は二つの部分から成り、一つに、近時の英米圏を中心に展開するアレクシーを中心とした道徳的原理に訴える法解釈論の議論動向を検討した。過去2年間の研究を基に、その内容をまとめて、国内の研究会で発表した。もう一つに、最近のアメリカ合衆国におけるオリジナリズムをめぐる議論展開について、前年度(令和4年度)の研究で取り組み報告した内容をさらに精査し、研究論文として公表した。以上の研究を踏まえて、道徳的解釈論と新たなオリジナリズムをめぐる議論を総括的に比較・考察し、その研究成果について国際会議で学会発表した。 法を如何に解釈すべきかをめぐり、2022年にアメリカ合衆国連邦最高裁判所は、女性の中絶の自由は憲法上の権利であるとする先例を大きく判例変更した。そこでは、憲法という法を如何に解釈すべきかに関して、裁判官の個々の政治的イデオロギーとは別に、それぞれの法理論・法解釈論上の立場の違いがあるというのが、本研究の基本的な視座であり、その一端を理論的に解明することができた。法解釈の在り方は、国内においても、例えば同性婚訴訟といった法解釈が分かれる困難な事例で直面する問題であり、本研究は、かかる法的問題の解明へ向けた理論的な視座の一つを提示できる点にその意義があると考えている。
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