研究課題/領域番号 |
21K01125
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
川端 康之 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (70224839)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 租税条約 / 米仏租税条約 / 独立企業原則 / 追掛け課税 / ルドルフ案 / プロイセン / 大英帝国 / 北ドイツ連邦 |
研究実績の概要 |
本研究は、欧州地域、米州地域、アジア地域という3つの地域における国際課税のルールの発展と相互影響について法政策学的視点から分析しようとするものである。 2022年度は、新型コロナ感染症の影響で海外渡航を見合わせたため、外国研究所等の訪問調査や国際学会での同僚研究者との情報交換などに制限を受けたが、外国の国立図書館、国際機関や日本の国会図書館などで急速に進みつつある、資料のデジタル化の恩恵を受け、過去200年あまりの英国、北ドイツ連邦(プロイセン、ザクセン)、フランス、米国、国際連盟(国際連合欧州本部寄託)、日本大蔵省・外務省などの資料収集が進捗した。 それらを時系列に従って整理分析すると、従来我が国でいわれてきた、国際租税法の土台にかかわる基本的概念の生成過程が、これらの史料(資料)の上ではかなり違ったかたちで生成されてきたことが判明した。 それは、日本についても同じような状況である。帝国議会・国会の議事録データベースや官報データベースを丹念に検索調査すると、従来我が国では言及されることのなかった、明治初期から第2次世界大戦前の我が国における外国人・外国企業課税の展開を跡づけることが可能であると思われるような史料が多数存在することがわかった。それらを整理し、2023年度早々には都内租税実務家研究会で研究報告を行う。 また、これらの分析結果は細切れに論文にするよりは全体を一つの論文あるいは研究書として公表したほうが読者により正確な研究成果を伝えることができると考える。そのため、2022年度も前年度に引き続いて、研究活動の具体的内容は、原稿執筆ではなく、一次資料をできるだけ渉猟し史料に支えられた分析を行うことであった。それによって、欧米の論文でも一次資料とは大きく矛盾する誤認や調査不足のものが多数存在することがわかり、やはり一次資料の把握が極めて重要であることを痛感した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」でも説明したように、2020年初頭から始まった新型コロナ感染症の影響が次第に大きくなり、感染予防の観点から2022年度も外国出張はできなかった。そのため、外国研究機関で直接資料を検索収集したり、国際学会で同僚研究者と知見の交換を行うことも著しく停滞した。 しかし、上述のように、古い史料のデジタル化が各国で急速に進んでいるため、それらを検索することで、古い史料であれば本務校の研究室からでも収集閲覧することが、想像以上に可能になっていることが判明した。そのため、18世紀末ごろからの欧米の所得税制の生成過程の文脈で外国人・外国企業がどのように位置づけられ、現在の制度的土台が生成されてきたかを時系列で整理することが可能になった。この点は、むしろ、国内外に出張して資料集を行うことができないために生じた時間を活用することと相まって、想定外の史料収集整理が実現したといえる。そのため、全体の評価としては表記のとおりと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2022年度に収集した史料の整理分析を進め、年度当初に実務家研究会で研究発表を行い、実務家の知見をさらに重ねて正確な分析を期する予定である。 また、欧米では出入国の制限がほぼ緩和され、またパンデミックも収束しつつあるようであるので、現地の感染症に関する最新情報を収集しつつ、できれば、2023年6月の欧州学会(ルクセンブルク)と10月の国際学会(メキシコ)には出席し、近時の動向についての情報収集と意見交換を行うようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の交付額に次年度使用額が生じたのは、ひとえに、当初の申請時から予定していた外国出張経費を支出する(外国出張を実施する)ことができなかったからである。 外国での資料収集や情報収集は、単独で散発的に行うよりも、欧州学会や国際学会など同僚研究者が多数参集する場で行うことが、予算的にも時間的にも効率的に情報収集、資料収集を行う手段であると考えている。もちろん、それだけでは不十分で、必要に応じて、外国研究機関などの保存史料を直接閲覧分析することが必要なときもある。2022年度は感染症予防の点から、予算は確保できたにもかかわらず、外国出張を実行できず、そのため次年度への予算繰越しが生じた。
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