研究課題/領域番号 |
21K01127
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
黒澤 修一郎 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (30615290)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 憲法 / 違憲審査制 / 司法審査 / 政党 / アメリカ |
研究実績の概要 |
2023年度は、前年度までと同様、アメリカを対象とした研究を主として進めた。黒澤修一郎「アメリカ中絶判例の政治的文脈」島大法学67巻1・2号59-115頁(2024年)では、人工妊娠中絶分野の判例を素材にして、イデオロギー的分極化による政治過程の変動が判例の展開に与えた影響について、司法政治学における政治レジーム理論や、「社会運動と法」の理論の方法を用いて考察を行った。1960年代後半以降に政治的分極化が進行していくなかで、中絶問題は、共和党にとって、保守派勢力を結集するための「旗印」になったと同時に、広範な支持基盤に亀裂を生みかねない「くさび」にもなりかねないという両義性を有していた。こうした中絶の争点特性は、共和党の政治リーダーの行動を強硬にした場合もあれば穏健にした場合もあり、そのなかで保守派の最高裁裁判官は行動戦略の選択をニュアンスに富んだ形で行ってきたと論じた。なお、2022年のDobbs判決により判例が変更され、中絶の権利の憲法上の保障に終止符が打たれた。Dobbs判決は1980年代以降の保守派法律家運動の発展を背景にして、保守派裁判官が原意主義的行動戦略を選択したことにより生み出されたものと言える。しかし他方で、上記のような中絶問題の共和党にとっての両義性それ自体には変化がなく、むしろDobbs判決後は「くさび」としての側面が強くなっていると考えられると論じた。当該論文は、本研究プロジェクトの成果報告のひとつとして位置づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、当初の予定では研究の最終年度であったが、アメリカを対象とした研究は進めることができたものの、そうして得られた知見をいかにして日本を対象とした研究に応用するかについては十分に考察を進めることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は2024年度までの延長が認められた。当該年度にあっては、まず、アメリカを対象とした研究をさらに進展させたい。とりわけ、分極化が司法審査に対してもたらす弊害をいかにして制御するかという観点から、司法審査理論に関する研究を深めたい。また、アメリカと日本との比較を進め、政党のありようが司法審査制の運用にもたらす影響などに関する研究を進展させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の当初の研究期間である2021-2023年度に海外調査を行う予定であったが、コロナ禍および研究代表者の本研究以外の業務の多忙などにより実施できなかったなどの理由で残額が生じている。残額は、基本的には主に海外調査などに使用する予定である。もっとも、継続的な円高の進行により、海外渡航費が当初の想定よりも大幅にかさむものと想定される。仮に海外調査が予算的にきわめて困難な場合は、国内で研究会報告を行い本研究のレビューを受ける機会を設け、そのための旅費として使用するなどして対応したい。
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