研究課題/領域番号 |
21K01128
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吉野 夏己 岡山大学, 法務学域, 教授 (90379834)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 名誉毀損 / 現実の悪意 / スラップ / 表現の自由 |
研究実績の概要 |
本研究の最初の課題は、スラップ被害防止法で受容されたアメリカ合衆国の名誉毀損法の全体像を明らかにすることである。コモン・ローに基づく判例法として発展してきたアメリカ合衆国の名誉毀損法は非常に複雑かつ難解である。しかし、重要な点は、名誉毀損法の憲法化であり、50年以上続く判例法理である「現実の悪意」の法理を正確に把握することが必要となる。このことは、本研究の目的の1つである、「わが国の民事不法行為法に『現実の悪意』の基準を採用すべきとの方向性のもと、同時に、その背後にある日本国憲法の表現の自由の基底にある憲法上の価値を浮かび上がらせること」の第一歩である。 2021年度は、「日本の名誉毀損訴訟に関する基礎的な法理の調査・検討」することを主眼としていた。この計画に従い、「民事名誉毀損訴訟と表現の自由」岡山大学法学会雑誌71巻3-4号57頁以下(2022年3月)において、アメリカ合衆国における名誉毀損法の憲法化の象徴である「現実の悪意」が、予想に反して50年以上にわたり「非常にうまく機能してきた」た事実を明らかにした。そして、自己統治、自己実現、思想の自由市場、対抗言論、萎縮効果など様々なキーワードで表現の自由の価値基底論が議論されているところ、アメリカ合衆国の「現実の悪意」の背後にある表現の自由に関する憲法論を再確認する必要性を検討した。日本の最高裁の採用する表現の自由の憲法上の価値は何であるのか、アメリカ合衆国で採用されている価値と差はあるのか、その価値が同質のものであれば、スラップ被害防止法を導入することが単なる「接ぎ木」ではないことが明らかになる。本研究は、これまで試みられなかったスラップ対策の基礎・背後にある憲法的価値を検討したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「民事名誉毀損訴訟と表現の自由」は、60頁を超えるものであり、これにより、日本の名誉毀損訴訟に関する基礎的な法理の調査に関して、一応の進捗がみられたと思われる。なお、コロナ禍により、事実のインタビューを含むリサーチなどは行われていない。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、日本の学説を網羅的に調査・検討し、特に、これまで検討されなかった法領域、例えば、メディア法、環境法、消費者法、地方自治法など個別の法分野別に紛争を類型化して分析を行う予定である。 目的でも記したように、スラップ問題に対処する上での一番の困難性は、外見上、スラップか否かが不明確であるという点である。当然ながら、市民活動に反応して提起されたすべての訴訟がスラップというわけではない。そこで、次年度は、スラップとされる判例、事例をできるだけ多く収集・分析し、日本におけるスラップとされるものの現状を把握したい。その上で、正当な訴訟とスラップを区別し、後者のみを排除するメカニズムを検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書購入計画の誤差が生じたものであり、次年度にも研究用図書購入費などにあてる予定である。
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