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2022 年度 実施状況報告書

リスク社会における国家賠償制度の再定位―民事不法行為法との共進化

研究課題

研究課題/領域番号 21K01140
研究機関北海道大学

研究代表者

米田 雅宏  北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (00377376)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード国家賠償法 / 安全配慮義務 / 危険管理責任 / リスク社会 / 職務義務違反説 / 動的システム論 / 民事不法行為法
研究実績の概要

建築物の建築主が、建築確認の申請書に添付された構造計算書が一級建築士によって偽装されていたことを看過して行われた建築確認処分により、「改修工事費用等の財産的損害」を受けたとして主張して地方公共団体に損害賠償請求した、いわゆる耐震偽装事件国家賠償訴訟(最三小平成25年3月26日集民243号101頁)において、最高裁は結論において原審と同様、原告の請求を棄却したが、その理由において、国家賠償法1条1項が定める違法性の理解をトータルに省察する契機となる重要な論点が触れられている。これは、具体的には法廷意見と補足意見の対立という形で示されたものであるが、研究2年目の研究では、この判決を素材に、建築確認という典型的な行政活動(行政処分)にかかる国賠違法の理解について集中的に考察した。本判決において注目したのは、根拠法上の「許可」の法的効果のみならず、「許可を付与すること」それ自体がもたらす事実上の効果ないし不利益的影響が、賠償責任規範成立の中心的要素とされている点である。というのも、「処分」とは区別される「処分をすること」に目を向けた場合、法律が「処分」の効果として直接的には想定していない作用、例えば許可名宛人を危険な状態に置くといった事実上の作用について照らし出すことになるからである。このことは、定型的行政処分が問題となるような事案でも、「処分をすること」を観念することによって、法規範が定める「処分」の直接的効果では捉えきれない損害の発生や危険の創出を、国賠法上の職務義務(危険回避義務)違反という形で問題とし得る可能性を示唆するものである。この考察結果は、以後、最高裁が考える「国家賠償法の解釈の構造」を解明する上で、重要なヒントを与えるものとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究の2年目は、ドイツの不法行為法理論である「社会生活上の義務」について調査・検討を行うことを通じて、国賠法との接続可能性並びにその限界について明らかにすることを計画していた。この点については、既に「危険管理責任の再定位(上)(下)―義務違反構成の試み」法律時報 93巻12号(2021)130頁以下、94巻1号(2022)121頁以下でその概要を盛り込むことができたが、若干の加筆修正を施し、太田匡彦=山本隆司編『行政法の基礎理論―複眼的考察』(日本評論社、2022)226頁以下にも収録することができた。また、上記論文の続編として、「建築確認処分と『国家賠償法の解釈の構造』―最三小判平成25年3月26日集民243号101頁を素材として」と題する論考を公表し、大貫裕之=神橋一彦=松戸浩=米田雅宏編『行政法理論の基層と先端―稲葉馨先生・亘理格先生古稀記念』(信山社、2022)419頁に寄稿することができた。現在は、上記論文で明らかになった結果を総括すべく、最高裁が考える「国家賠償法の解釈の構造」の見取り図作成に取り組んでいる。以上が「おおむね順調に進展している」と判断した理由である。

今後の研究の推進方策

研究計画の最後となる3年目は、これまで公表してきた論文の結果を総括し、最高裁判所が考える「国家賠償法の解釈の構造」の見取り図の作成に取り組む予定である。具体的には、行政処分に代表される典型的な行政処分の国賠法違法の理解にかかる、公権力発動要件欠如説と職務義務違反説の布置について明らかにしたい。国賠法が定める「公権力の行使」概念を再吟味し、「行政処分」と「行政処分をすること」の区別がもたらす国賠法の解釈上の帰結を明らかにするほか、「職務上の義務」の理解が、論争の続く国賠違法の理解、とりわけ学説上支配的な公権力発動要件欠如説といかなる布置関係に立つか、裁判実務の観点から確認し、総括する予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (8件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 危険管理責任の再定位――義務違反構成の試み2023

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      太田匡彦・山本隆司【編】『行政法の基礎理論―複眼的考察』(日本評論社)

      巻: ―― ページ: 226―252

  • [雑誌論文] 行政法学のリ・デザイン―二元的思考を超えて(行政法学のリ・デザイン 二元的思考を超えて 1)2023

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      法律時報

      巻: 95巻1号 ページ: 104―109

  • [雑誌論文] 給水条例が定める免責条項と水道法15条2項の常時給水義務(最判令和4・7・19)2022

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      法学教室

      巻: 507号 ページ: 141―141

  • [雑誌論文] 職権証拠調べ2022

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      斉藤誠・山本隆司【編】『別冊ジュリスト・行政判例百選Ⅱ〔第8版〕』(有斐閣)

      巻: 261号 ページ: 382―383

  • [雑誌論文] パトカー追跡による第三者の損害2022

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      斉藤誠・山本隆司【編】『別冊ジュリスト・行政判例百選Ⅱ〔第8版〕』(有斐閣)

      巻: 261号 ページ: 432―433

  • [雑誌論文] 「生」を支えるインフラストラクチャーへの法学的接近―企画趣旨に代えて(特集 インフラと法――「生」の基盤を考える)2022

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      法律時報

      巻: 94巻10号 ページ: 7―14

  • [雑誌論文] 土地建物の財産の評価通達による画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(最判令和4・4・19)2022

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      法学教室

      巻: 503号 ページ: 126―126

  • [雑誌論文] 建築確認処分と「国家賠償法の解釈の構造」―最三小判平成25年3月26日集民243号101頁を素材として2022

    • 著者名/発表者名
      米田雅宏
    • 雑誌名

      大貫裕之・神橋一彦・松戸浩・米田雅宏【編】『稲葉馨先生・亘理格先生古稀記念 行政法理論の基層と先端』(信山社)

      巻: ―― ページ: 419―441

  • [図書] 稲葉馨先生・亘理格先生古稀記念 行政法理論の基層と先端2022

    • 著者名/発表者名
      大貫裕之・神橋一彦・松戸浩・米田雅宏【編】
    • 総ページ数
      756
    • 出版者
      信山社

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公開日: 2023-12-25  

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