研究課題/領域番号 |
21K01143
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
土井 翼 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (20734742)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自由使用 / 公物法 / COVID-19 / 会議の公開 |
研究実績の概要 |
令和3年度は,自由使用論再構成の前提として,現在の日本における自由使用論の議論状況確認を計画していた。この計画に基づき,同年度には以下のような研究を実施した。 第1に,「自由使用の非権利性」という観念について2つの異なる意味内容が語られてきたこと,そのうち伝統的通説が採るとして批判対象とされてきた意味内容は実際には主張者が(少なくとも有力には)存在しないものであることを示す論文を執筆した。第2に,地方議会の傍聴席における撮影許可制の運用にまつわる裁判例の評釈を通じて,自由使用が認められる公共用物とそうではない公用物との関係について検討すべき点を指摘した。具体的には,議場や裁判所といった公用物としての管理がなされているにもかかわらず,その「公開」が語られるが故に公共用物としての性格も併有すると考えられる施設の管理について,憲法学と行政法学で検討,すり合わせを実施すべき課題を具体的に列挙した。 第3に,自由使用の利益を包摂する人身の自由の制約について,COVID-19対策に関する検討を通じて,現在の法制度及び実務の問題点を具体的に指摘した。とりわけ,現在の検疫実務は,法律上の根拠なく移動の自由などをきわめて強度に制約する点で非常に問題が大きいことを検疫法の個々の規定の解釈により明らかにした。 以上を要するに,自由使用あるいは公共用物をめぐる学説,裁判例,実定法制度について検討すべき問題を具体的に摘示しえた。問題の具体的な解決策となる理論枠組みは提示していないが,それについては比較法的考察の成果を踏まえたうえで最終年度に実施することを当初から予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画においては,自由使用論をめぐる憲法及び行政法の交錯領域としてのパブリック・フォーラム論の検討を予定していたが,その検討を本格的にはなしえなかった。とはいえ,地方議会の傍聴に関する裁判例の検討を通じて,公物法をめぐって憲法学と行政法学との間にズレが存在することは具体的に示しえた。さらに,感染症対策法制など公物法の観点からの検討がほとんどなされてこなかった領域について実定法に即した検討をなしえた。かくして,全体としては研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年9月からFirenze大学法学部での2年間の在外研究の機会を得た。したがって,当初の計画通り,令和4年度はイタリア法の分析に充てることとし,同地におけるbeni comuni論や正当な利益(interesse legittimo)概念の研究の進展について考察したい。前者については,民法改正に関するRodota草案及びその後の学説上の議論の分析をし,後者については,F. G. Scoca, L'interesse legittimo, 2017と,同書を受けた20名以上の論者によるシンポジウムの記録たるS. Licciardello e S. Perongini, L'interesse legittimo, 2019を手掛かりとして研究を進める予定である。また,行政法総論との接続を図るために,日本における客観的構成の発想源の一つであるSanti Romanoの公権論,正当な利益論についても考察を及ぼしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度末にFirenzeを訪問して令和4年9月からの在外研究について現地の受入教員と協議をする予定であったが,日本帰国後の隔離期間などの問題に鑑みて渡航を延期したため,未使用額が生じた。 現在では入国制限なども緩和されているため,現状の検疫体制が維持されるという前提の下において,令和4年度中にFirenzeを訪問することとし,未使用額はその経費に充てる。
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