研究課題/領域番号 |
21K01147
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
児玉 弘 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (30758058)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 法的安定性 / 行政法学 / 行政行為論 / 行政手続論 / 行政訴訟論 / 法と時間 / 諫早湾干拓紛争 / 原発訴訟 |
研究実績の概要 |
本研究は、いったん行政活動がなされた以後に法・事実状態の変化があった場合における当該行政活動のあり方について、《行政の安定性・継続性》を担保しつつ、時間の経過にともなう法状態・事実状態に対応するための《行政活動の継続的・適時的更新》を可能とする法理論を提供することにより、市民の権利を実効的に保障する行政法解釈の指針を提供する試みである。 令和4年度においても前年度に引き続き、行政法の《法的安定性》の各論的再検討として、大規模公共事業について、《法的安定性》に根拠づけられた法制度ないし法理論を洗い出し、その根拠づけが理論的に正当化されるかを行政法学上の議論にも立ち返りつつ問い直した。 具体的には、(1)諫早湾干拓事業を素材にして、当該事業をめぐる紛争が行政法学ないし行政法理論に突きつける課題を明らかにしようとした。近時、開門確定判決(福岡高判平成22年12月6日判時2102号55頁)の強制執行の不許を求めて国が提起した請求異議を認めた福岡高裁判決(福岡高判令和4年3月25日訟月68巻5号377頁)に対する上告を棄却しまた上告申立を不受理とした最高裁決定(最決令和5年3月2日判例集未搭載)が出された。一般的には、この最高裁決定をもって司法の「ねじれ」が解消したとか、司法判断が統一されたとかといわれている。しかし、国が確定判決により自らに課された義務を履行しないという事態を行政法学ないし行政法理論が従前想定していたとは考えられないように思われる。この裁判が行政法学ないし行政法理論に対して与える理論的影響を検討し、その結果を令和5年度のはじめに、日本法社会学会および環境法政策学会において発表を予定していることから、その準備作業を行った。(3)行政法学に関する論文・裁判例を網羅的に回顧し、展望を示す論文の執筆に関与し、個別法の観点から行政法学を再構成する視座を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度においては、当初計画していた、行政法の《法的安定性》の各論的再検討を行い、個別法ないし個別事案において、時間の経過にともなう法・事実状態の変化があった場合における当該行政活動のあり方について、大規模公共事業(とりわけ諫早湾干拓事業と当該事業をめぐる紛争)を素材にして、理論的・制度的な検討を行いつつ、その検討結果をまとめ発表する道筋をつけることができたことなど、一定の成果をあげることができた。また、行政法学に関する論文・裁判例を網羅的に回顧し、展望を示す論文の執筆に関与し、個別法の観点から行政法学を再構成する視座を得たことも重要な研究上の進展である。 他方で、諫早湾干拓事業とそれをめぐる紛争についての検討、すなわち、個別法ないし個別事案の分析・検討に時間および労力をかけすぎたという反省点も存在する。個別法ないし個別事案の特質をふまえ、それらを行政法総論の文脈で位置づけ直すという作業が必要になるが、この作業には当初計画していた比較法的な検討が必要になるところ、この検討作業は今後の課題として残されている。 以上を総合的に考慮して、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度(=研究3年度目・研究最終年度)においては、以下の点が重点的な課題となる。 第1に、行政法の《法的安定性》の各論的再検討、すなわち、大規模公共事業(諫早湾干拓紛争)および原発訴訟の分析・検討により得られた個別法ないし個別事案における時間の経過にともなう法・事実状態の変化があった場合の当該行政活動のあり方について、行政法総論上の議論ないし理論として位置づけ直す。 第2に、上記課題により析出された、時間の経過にともなう法・事実状態の変化があった場合の当該行政活動のあり方は、行政手続・行政訴訟によっていかに追究されうるか、を明らかにする。 第3に、これまでの文献調査による考察・検討によって生じた問題点についてのインタビュー調査・実地調査を行う。とくにドイツ法に関する議論については、現地調査の計画を進め、現地調査を実現させたい。もっとも、新型コロナウイルス感染症の感染状況によっては、実際にドイツに赴いての調査はなお困難が予想されるため、オンライン会議システムの利活用も検討する。 最後に、以上の諸点をまとめることにより、《行政活動の継続・適時的更新》を可能とするための市民主導の行政手続および行政訴訟を観念し、当該観念をふまえた行政法理論を提示する論文を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1) 購入を予定していたドイツ語文献の出版が遅れたために物品費の執行に遅れが生じた。これについては、令和5年度中の出版が見込まれるために、同年度中に物品費として執行する予定である。 (2) 予定していた出張について、新型コロナウイルス感染症の国際的な感染拡大を受けて、延期したために旅費の執行に遅れが生じた。これについは、令和5年度中に、調査旅費および研究成果発表旅費として執行を予定している。
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