研究課題/領域番号 |
21K01154
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
上代 庸平 武蔵野大学, 法学部, 教授 (90510793)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 公文書管理 / アーカイブズ法 / 地方自治行政 / 公文書管理条例 / 情報自己決定権 / 災害アーカイブズ |
研究実績の概要 |
4年目となる当年度においては、前年度に実施した収集資料や実地調査の結果をまとめるとともに、国内において公文書管理制度の整備(特に公文書管理条例の制定及び公文書管理施設の設置)を実施した地方公共団体における情報収集を継続して行った。 ドイツ連邦公文書館シュタージ文書館において前年度に実地調査を実施し、その結果を公表した。統治アーカイブズの中に位置づけられるが、通常の公文書とは異なり公文書館による選別収集を経ずに保存され、かつ、使用に際して通常の公文書とは異なる制限が付される文書群であるシュタージ文書についての特別法の規定について、旧シュタージ文書管理庁以来の経緯も踏まえて、検討を行った。 日本の公文書管理法における公文書管理制度の目的は、行政の適正かつ効率的な運営と、主権者である国民に対する説明責任の完遂であると定められているところ、この目的自体は、地方行政にも当てはまるものであると考えられる。そのため、地方公共団体においても、統治アーカイブズの制度については、外部規範たる法規の形式で規律されることが必要であるとの仮説に基づき、条例の制定及び条例に基づく公文書管理施設の設置運営によって、地方公共団体における公文書管理の在り方、整備の妨げとなる財政・施設・人的要素に対する評価、及び特定歴史公文書等の利用に関する状況がいかなる影響を受けるかが、調査の焦点となった。 上記に加えて、当年度に発生した重大な自然災害は、地域に残る歴史資料及び歴史公文書が、社会の災害に対する強靱性を担保する機能を有するものであることを浮き彫りにした。この観点から、東日本大震災や能登半島地震の被災地自治体における災害アーカイブズの機能についての考察の必要性を認識したため、両地域における実地視察を実施し、次年度における考察に向けての準備作業に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度は、災害アーカイブズや地域の文化資源についての調査を重点的に行ったため、国内の地方公共団体における実地調査と、前年度の調査結果のとりまとめを主として行った。 国内調査は概ね予定通り実施することができ、資料収集についても、現地地方公共団体及び公文書館等の協力を得て所期の結果を挙げることができたと考える。 また、国外調査の結果のとりまとめについては、シュタージ文書法に関する検討結果を含めて取りまとめたほか、社会全体に影響を与えたコロナ禍に起因する財政問題に関する裁判所の判断についての検討結果を公表することができた。 もっとも、国内調査の実施結果の分析ととりまとめについてはまだ着手ができておらず、他の地域との関連を持たせることを想定している前々年度の調査結果を含め、とりまとめの準備作業には着手したものの、災害アーカイブズに関する実地調査の必要が生じたため、不十分にとどまらざるを得なかった点は、反省材料である。 総じて、調査の進捗と結果の公表については順調に進捗しているものの、残る調査結果のとりまとめと公表に課題が残っている状況であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度となるため、研究成果のとりまとめと公表を重点的に行う予定である。 その前提として、積み残しとなっている実地調査結果のとりまとめを早急に行う必要があるとかんがえており、そのための作業については既に着手している。 これまでの実地調査においては、地方における公文書管理制度の整備の妨げとなる要素についての知見が得られているが、この要素に対する視角として、地方における統治アーカイブズの整備に当たっては、国の統治アーカイブズとは異なる制度原理が必要であると分析している。この制度原理の解明のために、日本に比して財政・施設・人的要素に特段優れる事情が認められるわけではないドイツ圏の自治体の統治アーカイブズの現状と、それを支えるアーカイブズ法制の現状に再度目を向ける必要があると考える。 そのため、国内調査の結果のとりまとめの公表と並行して、外国における制度調査の実施を行い、それを分析の土台として制度原理の解明に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中から災害アーカイブズに関する調査を始めた関係上、国内調査を優先することになったため、国外調査を延期したことが、次年度使用額を生じさせた主たる理由である。 当年度においては、予定した国内実地調査は想定通り実施でき、また、予定していた資料の収集やオンラインヒアリング設備の増強整備もほぼ予定通り進捗させることができた。 次年度においては、外国における実地調査や学会発表を行うことを予定しているので、その用途に費用を使用することにしている。
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