本研究のテーマは、「巻き込まれた問題」の問題、すなわちそれ自体としては(「巻き込まれた問題」がなかったならば)、国際裁判所の事項的管轄権の内にある請求の判断にあたって、それ自体としては(別途の請求として提起されていたならば)、事項的管轄権の外にある問題(「巻き込まれた問題」)の判断が必要になる場合、国際裁判所はその請求について判断できるかとの問題である。 最終年度にあたる2023年度は、主に論文の執筆とリバイズを行った。特に本研究テーマ全般に関する論文として、「国際裁判所の事項的管轄権の限界:いわゆる『巻き込まれた問題』の問題の検討を通じて」を執筆し、公表した。本論文では、まず「巻き込まれた問題」の問題はいかなる状況で生じるか(問題の出現形態)、本問題と区別して論じらるべき問題は何か(問題の外縁)、また国際裁判所の管轄権と適用法はいかなる関係にあるか(問題の分析枠組)を検討し、明らかにした。次いで本問題に関する代表的な裁判例、及びそれらの裁判例を評価し、あるべき判断を論じた学説を検討し、裁判条項等の国の合意の解釈から答えを導くことが困難であるなか、なお国の合意の解釈を試み、これによって無理に導かれた基準にしたがって各判決の適否を断じ、あるべき判断を論じる学説の問題点を明らかにした。その上で、判決の多様性は、矛盾ではなく、事案の特殊性に根ざした対応の多様性を示しているとの理解に基づき、それらの判断にはいかなる要因が作用していたと考えられるかを分析し、明らかにした。 「本条約の解釈適用に関する紛争」は国際裁判所に付託する等の裁判条項を擁する条約、及びそれらの条項に基づく裁判例が増大するなか、本問題は今後さらに重要になるものと考えられる。本研究の成果を活かして新たな裁判例の分析を進めるとともに、それらの分析をフィードバックして、本研究課題の成果を精緻化していくこととしたい。
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