研究課題/領域番号 |
21K01160
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
竹村 仁美 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (10509904)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 国際刑事法 / 国際犯罪 / 防止義務 / 国際法上の個人犯罪 / 国家責任 / ジェノサイド / ロヒンギャ |
研究実績の概要 |
本研究課題「国際法上の犯罪に対する防止義務:国家責任と個人責任の二重追及に関する国際法の研究」の目的は、ジェノサイドなどの国際社会の関心事である重大な国際法上の犯罪を防止する国家と個人の義務の射程を明確化することにより、義務違反の帰結としての国家責任と個人責任の追及に関する国際法状況を明らかにすることにある。
具体的な研究項目は、①国際法上の犯罪に対する国家の防止義務、②国際法上の犯罪に対する個人の防止義務、③国際法上の犯罪の防止義務違反に対する国家責任、④国際法上の犯罪の防止義務違反に対する個人責任、⑤国際法上の犯罪に対する国家と個人の二重責任追及の国際法状況の分析の5つである。2022年度には各研究項目に関する国際実行が多く見られた。まず①③のジェノサイド条約上の同犯罪防止義務の射程に関して、2022年3月には国際司法裁判所でウクライナ対ロシアのジェノサイド条約適用事件に関する仮保全措置命令、同年7月には国際司法裁判所でガンビア対ミャンマーのジェノサイド条約適用事件に関する先決的抗弁判決が出されている。次に②④に関しては、同年3月に国際刑事裁判所の検察官がウクライナの事態に関する捜査を決定、2023年に部下の犯罪防止義務を射程に含む指導者責任に関して国際刑事裁判所が逮捕状発行、といった動きがあった。以上から、⑤に関しても研究を進める検討材料が微増した。
具体的な成果としては、2022年9月4日には第2回科研費研究会を対面式で開催し、ウクライナの事態などに関して報告を2名に行ってもらい計7名で討論を行った。自らはウクライナの事態に関する日本語の原稿の執筆と、本研究課題の成果の中間報告としての報告を2023年3月18日に国際人道法・刑事法研究会で行い、年度末はミャンマーにおけるロヒンギャの事態と国際刑事裁判所・国際司法裁判所での責任追及に関する英文単著の執筆・脱稿に注力した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は口頭発表、論文、単著の成果を出すことができた。具体的には、本研究の中間的な成果発表となる日本語での口頭報告を行い、ウクライナ・ロシアの事態の国際刑事裁判所と国際司法裁判所の同時係属の事案に関して日本語で紀要論文を書き、昨年に続いて第2回目となる本課題の研究会を対面形式で開催できた。さらに、本課題応募時にすでに着手していた英文単著を脱稿した。この英文単著はミャンマーのロヒンギャの迫害の問題に関する国際司法裁判所と国際刑事裁判所での事態の同時係属に関する研究であり、刊行は2023年度となる。もっとも、個別の研究成果の出来としては、国際法上の犯罪に対する国家責任と個人責任の二重追及の法状況について有機的解釈を提示できていないなど至らない点が多く、研究のさらなる進展を待つところが多い。しかし、上述の通り単著をはじめとして一定の成果を挙げることができたことから、順調に研究計画を遂行していると考え、この評価に至った。
2022年度夏には短期間ながらもドイツのニュルンベルク原則アカデミーでの研究員へのインタビュー、オランダの平和宮図書館における資料収集、国際刑事裁判所の裁判傍聴とブリーフィング参加、裁判官・職員との会談といった海外出張成果も得られ、出張の側面において2021年度の不足分を補って余りある成果となったと考えられる。
反省点として、2022年度末にようやく国際人道法・刑事法研究会で口頭報告を行ったため、そこで出された課題に年度内に対応することが困難であった。とりわけ国際法上の犯罪に対する国家責任と個人の責任、そして国際組織の責任の関係性に関して、2022年度は個別の法状況を確認し、報告するにとどまった点で相互関係についての有機的解釈を提示することができず不十分な結果となった。今後本研究課題を一層深化させた上で、関係性・無関係性について一定の態度を示す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、すでに研究を進めている研究項目⑤「国際法上の犯罪に対する国家と個人の二重責任追及の国際法状況の分析に関する研究」を補完・継承していきながら、総括へ向けて資料の渉猟と国家と個人の義務と責任の二重追及の国際法の体系的理解について理論構築に努める。なお、当初の研究計画策定時には、2023年度開始までには、ミャンマーのロヒンギャ問題について国際司法裁判所の判決や国際刑事裁判所検察局の見解・逮捕状等も出ていると予想していたが、現時点でその見通しが立っていないため、これら判決・決定を踏まえた検討を行うことは難しいことが予想される。他方で、国家責任と個人責任の二重追及については、2022年度中に国際司法裁判所と国際刑事裁判所の初の同時係属事案として新たにウクライナの事態が生じ、これに関連して2022年度中に国際刑事裁判所から逮捕状も出されたため、その決定が公になればその分析を通じて、本研究を一層進展させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
注文している図書の代金が確定しながったなどの必要となることに対処するなどのため若干の残金を生じさせることとなった。だが、全体としてみれば、おおむね計画的に基金を利用できている。今後も適正な研究費の利用に努める。
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