研究課題
本研究で明らかにしようとするのは、国家がもつ個人請求権処理権能の根拠とその内在的および外在的制約である。戦後賠償問題については、個別の条約の解釈論を中心として豊富な先行研究の蓄積があるが、個人請求権を処理する国家の「権能」の問題は、これまで断片的にしか論じられてこなかった。この問題の解明は、過去に締結された戦後処理関連条約等について解釈上生ずる諸問題の解決や、今後締結される条約において国家が何をどこまで処理できるかを明らかにしておくという実践的な意義を有するほか、国際法の基礎理論に対して新たな視座や知見を提供するという意義も有する。本研究では、個人の請求権を国内法に基づくものと国際法に基づくものとに分け、それらを処理する国家の権能の根拠と内在的制約、そして、その権能を外在的に制約するものがあるかどうかについて検討する。本研究では、個人の請求権を、(1)国内法(民法、国家賠償法等)に基づくものと、(2)国際法に基づくものとに分け、それぞれについて 、国家がそれらを処理できる根拠と処理権能の制約を明らかにする。(1)については、個人の私法上の権利(財産権その他の権利)を創設・ 改廃する権限を国際法上もつのはどの国かという問題を、(2)については、個人が国際法に基づき請求権をもつということの意味を検討する。(3)さらに、個人請求権を処理する国家の権能を外在的に制約し得るものとして、国際法の強行規範、1949年ジュネーヴ諸条約の共通規定、 国際人権法などと請求権処理権能の関係を検討する。令和3年度は、(1)についての研究を進め、その成果を国際法学会2022年度研究大会において報告した。また、令和3年度の後半には、(2)についての研究も進め、その成果を論文にまとめて発表することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
令和3年度は、「研究実績の概要」に記した(1)の部分の研究を進めるのが当初の計画であった。当初計画のとおり、(1)については研究成果を学会で報告し、その内容は令和4年度中に学会誌に掲載されることも決定した。令和3年度は、当初計画では令和4年度中に取り組む予定であった(2)についても研究を進めることができ、その成果を論文にまとめて発表することができた。以上から、本研究は、当初の計画以上に進展していると評価することができる。
令和4年度は、まず、「研究実績の概要」に記した(1)の部分についての研究成果を論文にまとめる作業に集中する。それが終わった後は、(3)の部分の研究にも取り掛かる予定である。
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国際公共政策研究
巻: 26 ページ: 135~148
10.18910/86852
Seokwoo Lee ed., Encyclopedia of Public International Law in Asia, Vol. 1 (Brill, 2021)
巻: 1 ページ: 283-284
巻: 1 ページ: 281-283