研究課題/領域番号 |
21K01167
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
古谷 修一 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50209194)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非国家武装集団 / 中間団体 / 国際法上の責任 |
研究実績の概要 |
本研究は、国家あるいは個人のいずれでもない、その中間的な団体が国際法上の責任主体となる国際法現象が発生しており、これを国際法における責任論の文脈のなかで、どのようにとらえるべきかを理論的に検討することを課題としている。 令和3年度は、武力紛争に関連する中間団体の位置づけについて検討し、とりわけ非国家武装集団(Armed non-State groups)に対する国際法規範の適用とそこから生じる責任の実証的な検討を行った。従来の議論では、中間団体の責任は国家に準じる存在として国家責任論の枠組で議論される方向もあれば、個人の集合体として個人責任論の枠組で検討される方向もあった。しかし近年の武力紛争の実態を検討すると、武装集団そのものに国際人道法・国際人権法上の義務に従うことを要求する安保理や人権理事会の決議が採択され、またスーダンやシリアに関して国連が設置した事実調査メカニズムの報告書においても、武装集団の責任が取り上げられている。さらに、内戦を終結させる和平協定にこうした武装集団が参画し、紛争時の文民被害などについて賠償を行うことを約束する実行や、自らの責任を積極的に認める一方的宣言を行う事例も、ベネズエラやフィリピンなどで見られる。 また、武装集団の内部においても、一定の国際法上の基準に合致した行動をその構成員に求める「行動規範」(Code of conduct)を制定する実行が見られる。さらに、Geneva Callとの間で、対人地雷の使用や子ども兵のリクルートなどを行わない旨の誓約に署名することで、こうした行動を規制する国際条約の内容を実質的に遵守させる実行も積み重ねられている。 令和3年度の研究はこうした動向を詳細に分析し、国家責任・個人責任と重畳的に機能 する「複合的な法適用過程」の存在を明らかにし、非国家武装集団の責任体系の現実的可能性を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね予定どおり進捗している。令和3年度の研究内容に関しては、現時点で論文を執筆中であり、令和4年度中に公表できる見通しである。 ただ、令和3年度はコロナ禍のため海外での資料収集やインタビューなどを行うことができず、研究の遂行は日本で得られる文献情報の検討に限られた。この点は次年度に実施する研究活動によって補完する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は中間団体責任の「相互的な法調整過程」を分析する予定である。国家、中間団体、個人という異なる責任主体への国際法の適用は、単純に規範内容が重複しているだけでなく、上位主体が下位主体の履行を確保する義務を負うという、別の責任構造を内在させながら、相互的な動的作用をもたらしている。たとえば、国際人権法においては、国家自身が人権を侵害しないという消極的義務に加え、私人も含めた他の主体による人権侵害を防止し、侵害が発生した場合には被害者を救済する「積極的義務」(Positive obligation)の存在が知られている。また、国際人道法・刑事法においては、軍や政府の指揮命令系統において部下の国際法違反を防止し、また事後的に処罰することを求める「上官責任」(Superior responsibility)の法理が存在する。 従来、こうした義務は異なる文脈において機能する独自の原則と理解されてきたが、責任主体の多面化という大枠で把握すると、一定の国際法規範が実現を目指す内容を、責任主体自らが実施する義務(実施義務)に加えて、他の責任主体が当該実施義務を果たすことを監督し、その実現を確保する義務(監督義務)が存在すると考えることができる。これは国家・中間団体・個人という責任主体が相互的に他主体の義務履行を監督する側面があり、責任主体の多面化は相互的な法実現の調整過程を経て展開する動的側面を持つことを示している。 令和4年度の研究においては、こうした側面について文献資料の検討を行うとともに、海外での文献資料の収集や研究者との意見交換を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の蔓延拡大のため、国内外への研究出張ができない状況となり、当初予定していた資料の収集や外国研究者との意見交換がまったく実施できなかった。令和4年度は夏に海外出張を行い、令和3年度に実現できなかったフランス、オーストリアなどに研究出張を行い、資料収集・研究者との意見交換を実施する計画である。
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