研究課題/領域番号 |
21K01167
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
古谷 修一 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50209194)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ビジネスと人権 / 中間団体 / 国際法上の責任 |
研究実績の概要 |
本研究は、国家あるいは個人のいずれでもない中間的な団体が国際法上の責任主体となる現象が発生しており、これを国際法における責任論の文脈のなかで、どのようにとらえるべきかを理論的に検討することを課題としている。 令和4年度は、企業活動に起因する人権侵害や武力紛争への関与を具体的なトピックとして、中間団体としての企業の責任の性質と違反防止・抑制のメカニズムの動態を検討した。国際法は領域内の企業活動が他国に損害を与えないように措置を取る義務があるが、近年は企業そのものに一定の義務を課すことで、その活動を規律する実行が見られる。これについて、①国際人道法の観点(赤十字国際委員会2006年『ビジネスと国際人道法:国際人道法のもとでの企業の権利と義務に関する序論』、2008年『武力紛争中の軍事警備会社の業務に関する国際法的義務と国家のためのグッド・プラクティスに関するモントルー文書』など)、②多国籍企業規制の観点(OECD2011年に『多国籍企業のためのガイドライン』、2016年『OECD紛争影響・ハイリスク地域からの鉱物資源の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス』 など)、③国際人権法の観点(2011年「ビジネスと人権に関する指導原則」、国連人権理事会・政府間WGの審議中のビジネスと人権に関する法的拘束力を持つ文書・第3草案など)から実証的な検討を行った。 その結果、この分野においては、ガイドライン・ガイダンスといったソフト・ローによる規制が中心になるが、必ずしも法と非法の区別が明確に行われているわけではなく、とりわけ企業活動の規律においては、国際的な基準を設定・周知することによって、これに違反する企業に対して消費者・投資家が否定的な対応を取る実行が見られ、従来の法的規制・責任追及とは異なる側面があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の研究内容に関連しては、国際法協会日本支部研究大会(2023年4月22日・東京大学)において、「国際法の『刑事化』―正義と処罰を基調とする国際関係の展開」と題する報告を行った。また、『清水彰雄先生古稀記念 国際経済法の課題と展望』(信山社・2023年中の出版予定)に「武力紛争地域におけるビジネス活動―「ビジネスと人権」の視点からの序論的検討―」を寄稿している。いずれも2023年度研究実績となることになるが、内容は2022年度の研究活動に基づくものである。 また、国際的な研究交流の側面では、当初の計画どおり、ライデン大学(オランダ)のvan den Herik教授と研究課題に関する意見交換を行うとともに、ブリュッセル自由大学(ベルギー)のAnna Weyembergh教授・Chloe Briere教授との共同研究について、具体的な計画とスケジュールの検討を始めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は最終年として、中間団体責任の「相互的な法調整過程」を分析し、中間団体責任論の理論化を試みる予定である。これまで2年間の研究によって、国際法が中間的な責任主体に対して、様々な方法で国際法の適用を適用している実態が明らかになった。しかし、異なる責任主体への国際法の適用は単純に規範内容が重複しているだけでなく、上位主体が下位主体の履行を確保する義務を負うという、別の責任構造を内在させながら、相互的な作用をもたらしている。たとえば、国際人権法における国家と企業との関係、親企業と子会社との関係、国際人道法・刑事法おける上官・部下関係などは、責任主体の多面化という大枠で把握すると、国際法実現プロセスにおける義務内容の二重性を示している。すなわち、一定の国際法規範が実現を目指す内容を、責任主体自らが実施する義務(実施義務)に加えて、他の責任主体が当該実施義務を果たすことを監督し、その実現を確保する義務(監督義務)が存在する。国家・中間団体・個人という責任主体が相互的に他主体の義務履行を監督する側面があり、責任主体の多面化は相互的な法実現の調整過程を経て展開する動的側面を持つ。 令和5年度は、上記のブリュッセル自由大学の研究者との共同研究プロジェクトにおいて、こうした側面を検討する。これとの関係で、7月に開催される国際刑事裁判所に関する専門家会議に出席し、研究報告を行うとともに、外国研究者との意見交換を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際的な研究活動として計画していた海外出張について、意見交換・共同研究の相手方であるライデン大学(オランダ)のvan den Herik教授、ブリュッセル自由大学(ベルギー)のAnna Weyembergh教授・Chloe Briere教授が、それぞれ別のファンドで来日されることになり、当研究者がオランダ・ベルギーを訪問する必要がなくなった。その点で、計画した意見交換・共同研究プロジェクトの検討は実施できたが、海外出張のために計上していた研究費は執行することがなかった。令和5年度は、ブリュッセル自由大学との共同研究が本格化する予定であり、またコロナ禍で中断していた国際刑事裁判所に関する専門家研究会議も7月にパリで開催されるため、令和4年度残額と併せた研究費で、積極的な海外研究活動を実施する計画である。
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