本研究は、国家あるいは個人のいずれでもない、その中間的な団体が国際法上の責任主体となる国際法現象が発生しており、これを国際法における責任論の文脈のなかで、どのようにとらえるべきかを理論的に検討することを課題としている。 補助事業期間を通じて、非国家武装集団(Armed non-State groups)と企業に対する国際法規範の適用とそこから生じる責任を実証的に検討してきた。従来の議論では、中間団体の責任は国家に準じる存在として国家責任論の枠組で議論される方向もあれば、個人の集合体として個人責任論の枠組で検討される方向もあった。非国家武装集団は前者、企業は後者からのアプローチが主流であったが、近年ではこれらの中間団体そのものを対象とする国際法規範が登場してきている。 前者については、スーダンやシリアに関して国連が設置した事実調査メカニズムの報告書において、武装集団の責任が取り上げられている点を分析し、さらに内戦を終結させる和平協定に武装集団が参画し、自らの責任を積極的に認める宣言を行う実行などが見られたベネズエラやフィリピンの事例などを検討した。 後者については、企業活動に起因する人権侵害や武力紛争への関与を具体的なトピックとして、企業の国際法上の責任の性質と違反防止・抑制のメカニズムの動態を検討した。これについては、①国際人道法、②多国籍企業規制、③国際人権法という三つの観点から検討を行った。現時点ではソフト・ローによる規制が中心であるが、必ずしも法と非法の区別が明確に行われているわけではなく、国際的な基準を設定・周知することによって、これに違反する企業に対して消費者・投資家が否定的な対応を取る実行が見られ、従来の法的規制・責任追及とは異なる側面があることが明らかになった。
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