研究課題/領域番号 |
21K01168
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
河野 真理子 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90234096)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 国際司法裁判所(ICJ) / 投資仲裁 / 常設投資裁判所 / 再生可能エネルギー / 当事国間対世的義務 / 対世的義務 / 争訟事件手続 / 勧告的意見手続 |
研究実績の概要 |
本年度は、第一に、投資紛争の解決プロセスにおける国際的な仲裁手続と国内裁判制度の関係、第二に、洋上風力発電の環境影響評価の分野での欧州の国内裁判制度と欧州司法裁判所の関係、第三に、共同体的な利益を保護するための国際法規則の履行確保に関する国際司法裁判所の役割を研究対象とした。 第一のテーマについては、日本が締結している投資条約と経済連携協定における紛争解決条項の分析と、投資紛争の解決手続として多くの事例で利用されてきた投資仲裁についての近年の批判や欧州諸国を中心とした常設の投資紛争解決手続の設置に関する議論について、投資仲裁制度の整備の歴史を改めてふりかえったうえで、現在の投資仲裁の状況を考察した。その中で、特に再生可能エネルギー分野での投資紛争がエネルギー憲章条約のISDS条項に基づいて投資仲裁に付託された事例において、欧州司法裁判所を中心とする欧州地域の司法制度との関係に特に注目する研究を行った。また、EUとカナダの間の経済協定に設けられた常設の投資紛争解決制度につながる紛争解決制度が各国の国内裁判所及び国内法制度と欧州の司法裁判制度との関係でどのように位置づけられうるかも検討した。 第二のテーマについては、欧州における洋上風力発電に関する環境影響評価の制度を分析し、これに関連する紛争の解決における各国の国内裁判所や法制度と欧州司法裁判所の関係を検討し、欧州の洋上風力発電事業を支える法制度についての考察を行った。 第三のテーマについては、条約の当事国の共同体に対する当事国間対世的義務の履行確保のための訴訟における条約の紛争解決条項の意義と限界を分析するとともに、条約上の義務に限定されない、対世的義務や強行規範を定める規則の履行確保のために国際司法裁判所やその他の国際裁判所が果たす役割を争訟事件手続と勧告的意見手続の先例の視点から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究成果については、3年の研究期間に英語による研究成果の公刊を予定していたが、書籍の形での研究成果の公刊が実現できていない。研究成果の一部については、日本語と英語による論文として公刊しており、また、研究の成果を活かした形で、2024年3月に国連アフリカ地域国際法講座において、国家責任に関するフランス語の講義を実施した。特にフランス語による講義の準備には多くの時間が必要であった。本研究課題の下での研究がなければ、これらの論文や講義を実現することができなかったと考えているものの、研究成果を集大成する著書の形にできていないことから、研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断している。今後、本研究の成果全体をまとめたものを英語により公刊するための作業に力を注ぐことが課題であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果を以下の3つの課題に関する研究につなげていく。第一に、国家の裁判権免除の違反(イラン対カナダ)を含み、ICJで係争中の事案で国内裁判所の判断の国際法違反が論じられているものの手続の今後の進捗に留意しつつ、国際裁判所の判決が国内裁判所や国内法制度に及ぼす影響を考察し、国際裁判所の判決によって国家間の紛争を解決することの意義を引き続き検討する。第二に、投資仲裁の多くの先例の蓄積によってもたらされた、本質的に一つの紛争について、紛争主題や請求事項を区別することによって、国内裁判所と投資仲裁の両方の手続が用いられる事案の研究をさらに深め、現在の投資仲裁制度に対する批判と常設の投資裁判所の設立の動きの意義を考察する。第三に、本研究の過程で見出した、国際裁判所の宣言判決の今日的意義を新たな課題として、研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、外部からの依頼による外国出張が多く、本研究計画で予定していた外国出張ができなかった。今年度は外国出張による調査研究を行うとともに、本研究の成果全体をまとめる作業を行いたいと考えている。
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