研究課題/領域番号 |
21K01175
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神吉 知郁子 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (60608561)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有期雇用の無期転換 / 同一労働同一賃金 / 不合理な労働条件格差 / 最低賃金制度 |
研究実績の概要 |
労働法制の分配機能の可能性および分配の公正さ担保の方策を探究することを目的とする本研究の初年度では,社会保障領域における所得の再分配から,労働の領域における対価,すなわち社会資源の一次分配機能の設定への規制のあり方に重点をおいた研究を進めるなかで,根源的な労働法体系の枠組み分析を行った。研究の起点となる基本的な考察として発表した「労働市場への法的介入と公正な分配」(後掲・法律時報1163号16頁以下)では,労働法における分配機能について,自発的で集団的な交渉形態を保障し促進する方向と強行的な最低労働条件を法定するなど,法が労働者の個別の権利を直接規制する方向との2つの方向性で整理した。そのなかでは,雇用の場における不合理な格差是正の法制度の内容と展開を分配機能との関係で改めて位置づけ,最低賃金を通じた公正な分配のあり方を考える上では,透明性の確保など手続的正当性の強化に加えて,検証可能性を高めた実質的な公正さ担保の仕組みを構築することが必要だとの指摘を行った。また,雇用の場における格差は,労働条件という契約に内在する問題と,雇用保障という契約の存続そのものに関わる問題との2つの場面で深刻化している。そこで,有期労働契約の無期契約への転換に関して近時の裁判例を素材に分析を行い,その結果を判例評釈として公表することができた。また,歴史研究に関しては,電算型賃金体系の成立とその背景などについて文献調査を中心に行い,現在の賃金体系に関する設計思想が形成されるに至った理論的基盤の理解を深めた。これらに加えて,労働問題を専門とする弁護士や社会保険労務士などの実務家との研究交流を通じて,未だ法的課題として認識されていない実務上の課題を認識することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査や理論研究等については,概ね予定どおり進めることができている。ただし,新型コロナウイルス感染症に関する海外渡航制限等により,イギリス等の現地の研究者とはオンラインでインタビューなどを行ったが,直接交流は実現できていない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,最低賃金など賃金規制に関わる公正分配機能のあり方をより深める予定である。また,現代的な文脈において,運用の課題などを加味しつつ,各賃金規制に求められている解釈の変化を探る。また,休業時の所得補償や,違法な解雇に対する金銭救済制度導入など,より幅広い労働契約関係の展開における公正分配機能を広く検討する。さらに,比較法研究については,海外渡航が可能になれば,できるかぎり現地で直接資料および情報の収集を行いたい。それが難しいようであれば,引き続きオンライン交流を進めることで研究は遂行可能であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
比較法研究のための洋書を購入する予定で,為替変動を見込んで余裕をもって金額を確保していたが,当該書籍の刊行が遅れて会計年度中に購入に至らなかったため。
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