研究課題/領域番号 |
21K01185
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
柴田 洋二郎 中京大学, 法学部, 教授 (90400473)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | プラットフォームの社会的責任 / エル・コムリ法 / 職業の未来法 / 移動基本方針法 / 自営業者手当 |
研究実績の概要 |
本研究では、働き方の多様化のなかで非雇用労働者が増加し、雇用労働者との外延が曖昧化するなかで、社会保険制度がどのように対応すべきかを検討する。従来の政策・判例は、非雇用労働者に雇用労働者の制度を拡大したり、非雇用労働者が雇用労働者と同視しうるかという「被用者か非被用者(自営業)か」という二者択一的な思考により、社会保険制度の適用を決めようとしてきた。この結果、雇用労働者とされなかった「労働者」は、労働法の保護を受けられない不利益に加え、社会保険上も給付内容や給付水準で雇用労働者との格差が生じている。 こうした状況について、フランスを参考に、被用者保険(医療保険・年金保険)と労働保険(労災保険・失業保険)の双方を視野に入れて非雇用労働者に対する社会保険の適用のあり方を探った。フランスも、被用者と自営業に分類される社会保障制度を基盤にしている。しかし、2010年代半ば以降、フランスが就業上の地位にかかる社会保険から、就業形態に中立的な社会保険に向かっていると見受けられる改革が見られる。 2023年度は、労働保険(労災保険・失業保険)に着目して、フランスとの比較研究を行った。2016年以降、フランスでは、自営業者やプラットフォーム就業者(いずれも非雇用労働者の重要な一角をなす)の労働災害と失業の保護に動きがみられた。2016年のエル・コムリ法は、プラットフォームの社会的責任として、プラットフォーム就業者の労災保護を定めている。2018年の職業の未来法は、自営業者手当を創設して失業保険の人的対象を自営業者まで拡大した。そして、2019年の移動基本方針法は、憲章の策定を通じて、移動に関わるプラットフォーム就業者に補足的社会保障を享受させようとする。 以上から、フランスでは、被用者と自営業者の社会保障上の権利の差を縮小しようとする方向性がみられているということができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
労働保険(労災保険・失業保険)における非雇用労働者に対する社会保険の適用のあり方を探るなかで、フランスの近年の改革動向を検討することができた。その結果、フランスでは、被用者と非雇用労働者の社会保障制度上の保護に大きな違いが残されていた労働保険の領域で、2016年以降、自営業者やプラットフォーム就業者を保護する立法がみられ、被用者と非雇用労働者の社会保障制度が接近しつつあることを明らかにすることができた(ただし、依然として差異が残されていることには注意が必要である)。以上から、本研究は「おおむね順調に進展している」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、フランスの検討を進めるなかで得られた示唆を、日本の法制度の文脈に照らして検討することが必要となる。 そのためには、第一に、日本における議論の状況・制度のあり方を整理・分析する必要がある。具体的には、日本では、これまで、非正規労働者の待遇改善がみられてきたが、こうしたなかで現在、労働法規の適用を受けず、社会保険料の使用者負担も求められない自営業者を利用して、コストを削減しようとする動きが広がりつつある。これに対して、日本の労働法は、(1)実態に応じた「労働者」性の判断や、(2)法令上の特例措置(労災保険の特別加入等)・類推適用によって対応してきた。さらに、2023年にはいわゆる「フリーランス保護法」が成立し、「取引の適正化」(競争法の観点)と「就業環境の整備」(労働法の観点)からの措置が講じられている。同法制定に至る議論や経緯、同法の意義と残された課題を整理・分析することが必要となる。 第二に、非雇用労働者に対する保護の可能性を「具体的に」検討する必要がある。つまり、非雇用労働者に対する社会保障を一括りに論じるのではなく、「誰に」(=人的適用対象)「何を」(=対象となる制度)「どのように」(=財源や給付のあり方といった保障方法)保障するのかに留意しながら社会保障のあり方を検討することである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、フランス法制の比較研究を重要な柱としているが、本研究費とは別の予算によりフランスに滞在する機会を得ることができたため、外国旅費を使用せず、また同じ理由によりフランスの書籍について現地図書館等で閲覧することが可能となり、購入する必要がなくなった。これにより、外国旅費と図書購入費について、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、今後もフランスの最新の動向を把握するため、在外出張の機会を得て、フランス人研究者と意見交換・議論を行うための費用としたい。また、フランスの関連制度にかかる文献・資料の購入にも充てたいと考えている。
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