本研究の研究目的である、日米地位協定3条1項に基づく排他的施設管理権によって、国(労働基準監督署職員など)は米軍基地の中には米軍の許可なく立ち入れず、国が安全配慮義務が十分尽くせないという問題については、以下の知見が明らかとなった。すなわち、米軍人らによる駐留軍等労働者に対するパワーハラスメント等の労働問題は、米軍人らによる公務上契約責任の問題として把握されるが、日本政府がこの責任を信義則を根拠に肩代わりするという国内法上の救済とは別に、米軍加害者に法的責任を負わせる場合、日本の裁判所は執行権を有しないことから、米国の裁判所において、外国判決を承認執行させるという国際私法上の問題となることが明らかになった。 同様に、本研究の目的である、駐留軍等労働者の法的地位が日米地位協定12条4項に基づき、国が雇用し米軍に提供するという「間接雇用方式」に基づくことから生ずる問題および日米地位協定12条5項の国と米国との間で「相互間で別段の合意をする場合を除くほか、賃金及び諸手当に関する条件その他の雇用及び労働条件、……労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない」との規定から、労働条件を規定・変更する際に、米軍が同意せず、国内労働法規が適用されない状態が続いているという問題は、国内労働法規制定なくして、根本的な解決は難しいことが明らかになった。 国内労働法未整備の問題から駐留軍等労働者の労働法的問題の解決には限界があり、米軍や米軍人らにより、惹起された民事的被害の救済方法を、(1)公務上不法行為責任および(2)公務外不法行為ならびに(3)公務上契約責任および(4)公務外契約責任の4類型に分けて考えていく必要があることが、現時点で得られた知見である。米軍人らの刑事責任の問題に比べて研究蓄積の少ない、米軍や米軍人らの民事責任の研究を深めることが今後の課題である。
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