研究課題/領域番号 |
21K01196
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
津田 雅也 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (80633643)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 少年の刑事事件 / 特定少年 / 若年成人 / 原則逆送 / 55条移送 |
研究実績の概要 |
2021年度は、令和3年改正少年法について文献調査を行ったほか、アメリカにおける逆移送制度についての文献調査および論説執筆を行った。前者については、特定少年(18歳及び19歳の者)の特例が刑事政策的に有効であることが実証されれば、特例適用の上限年齢を若年成人(20歳、21歳程度の者)に適用する可能性があることを確認した。後者については、アメリカにおいても、少年事件における逆移送制度を20代半ばまでの若年成人にも拡張可能であるとする議論が存在していること、各州においても少年裁判所の管轄や刑の減軽等の点において若年成人に特例を設けていることを確認した。こうした特例の根拠としては、①脳の発達が25歳程度まで続き若年成人と少年の類似性が認められること、②若年成人の衝動性等、③少年裁判所において手続を受けた者の方が再犯率が低いことなどが挙げられており、日本においてもアメリカの議論を参考にし得ることが示唆された。具体的には、特定少年の逆送、原則逆送に対する例外規定、55条移送の解釈・運用において、アメリカにおける法制度の議論が参考になることが期待される。以上のように、初年度の研究においては、若年成人の刑事処分の特例を設けることの理論的基礎が存在することを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
若年成人の刑事処分の特例について、その理論的基礎を確認することができたため。メリーランド州における逆移送をめぐる裁判例において、逆移送の要件がどのように解釈・適用されているかについての分析を行うことにより、重大犯罪を行った少年も成人と同等には扱われていないことを確認した。このことから、逆移送制度は、成人と少年の間に位置する中間層の犯罪に対する取扱いとして機能しうることを明らかにすることができた。また、少年事件における逆移送制度を、20代半ばまでの若年成人に拡張することを主張する見解がアメリカに存在することも確認できたので、上記の分析が一定の妥当性を有しうることも明らかにすることができた。こうしたことから、初年度における研究の進展としては、おおむね順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、令和3年少年法改正についての文献調査を継続するほか、2021年度に調査できなかったアメリカ各州における若年成人の刑事処分の特例についての文献調査を行う。 前者については、令和3年少年法改正についての立法担当者の解説や研究者の論考が公刊されつつあり、こうした文献について検討を加えることとする。とりわけ、特定少年に対する保護処分の法的性質、逆送・原則逆送・逆送の例外規定・55条移送の在り方などを中心に調査を行う。また、令和3年少年法改正の延長線上に位置づけられる課題として、特定少年層の年齢引き上げの成否についても調査を行う。後者については、アメリカにおけるメリーランド州以外の逆移送制度について補完的な調査を行うほか、アメリカにおける若年成人の刑事手続の特則・特別の運用をめぐる議論(または、少年法適用年齢の引き上げ論)について、文献調査を行う。アメリカの文献調査については、その成果を論文にまとめて公刊することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、メリーランド州における逆移送をめぐる裁判例の検討が中心となり、データーベース(LEXIS)による調査が中心となった。このことから、アメリカ各州の法制度の検討にまで文献調査の範囲が及ばず、そのための使用額が次年度(2022年度)に繰り越されることとなったため。また、国内における研究会がオンラインで行われることとなり、出張が計画通り行われなかったことも、次年度使用額が生じた原因として挙げられる。そこで、次年度においては、アメリカ刑法、刑事訴訟法、少年法の教科書やケースブックの購入に研究費を充てる予定である。また、状況を見ながら、国内の研究会の出席や、可能であれば国内の矯正施設等の調査も行うこととしたい。
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