研究課題/領域番号 |
21K01196
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
津田 雅也 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (80633643)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 少年法 / 特定少年 / 少年年齢 / 少年法改正 |
研究実績の概要 |
2022年度は、令和3年改正少年法について、特定少年(18歳及び19歳の少年)の法的性質・理論的根拠・年齢設定の妥当性等を中心とした研究を行った。すなわち、①特定少年という新たな類型の創設は少年法の役割を拡大させる可能性を含んでいるという認識を前提に、②特定少年に対する保護処分の正当化根拠・処分選択基準に関する議論を検討し、③特定少年の年齢引き上げは可能か、引き上げに伴う問題点は何かについて検討した。①については、保護処分賦課に「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない」という制限が付されたこと、虞犯が手続の対象外であること、保護観察・少年院収容期間に上限が付されたことに鑑みると、特定少年は18歳未満の少年とは質的に異なる「中間層」と捉えることができるため、そうした中間層を少年法の適用対象に取り込んだ点においては、少年法の適法範囲が質的に拡大したことを論じた。②については、特定少年に対する保護処分の正当化根拠として、侵害原理のみであるとする説、保護原理も併用されるとする説、侵害原理・保護原理とは別の観点である少年法固有の責任から特定少年の保護処分を説明する見解の3説があるということを明らかにした。これを踏まえて、③については、いずれの説からも特定少年層の年齢引き上げは正当化しうるが、改善更生・再犯防止の有効性、国家資源の有効活用、被害者を含む国民からの信頼という刑事政策的妥当性があって、初めて年齢引き上げが妥当であるという結論を採用しうることを指摘した。第1、2の点については年齢引き上げは妥当であるといいうるものの、第3の点については、当初は少年年齢の単純引き上げが議論されていた事実があることを前提にすると、年齢引き上げについて国民の信頼を得ることは困難であり、せいぜい1,2歳程度の引き上げが限度であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、特定少年の法的性質・理論的根拠・年齢設定の妥当性などを検討して、年齢引き下げには理論的な妥当性が認められることを明らかにした。このことにより、若年成人の刑事処分の特例が、特定少年の年齢引き上げを通じて少年法の延長線上に構想可能であることを示すことができ、本研究の最終的な結論(若年成人層に刑事処分の特例を設けるべき理論的根拠)に一定の基礎付けを与えることができたと評価できる。もっとも、本研究のもう一つの柱である外国法制(とくにアメリカ少年法)については、2022年度は基礎的な文献調査を行ったのみであり、成果公表には至っておらず、次年度(2023年度)はこの点の研究調査が必要である。アメリカ法の調査体調は膨大であるところ、国内法における少年法適用年齢引き上げの課題を明らかにしたうえで、その課題を解決するのに必要な範囲で調査を行うのが合理的であることから、研究の進展自体としては、おおむね順調に進展していると評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2022年度に実施した特定少年の年齢層引き上げの可否の研究成果を公表するほか、アメリカ各州における若年成人の刑事処分の特例及び少年年齢引き上げについての文献調査を行う。 前者については、特定少年の年齢層引き上げの可否について、令和3年少年法改正についての研究者・実務家の研究成果を踏まえたうえで、検討の成果を論文として公表する。その際、特定少年の年齢引き上げの理論的側面のみならず、刑事政策的妥当性についても検討を加えて論文に盛り込む。後者については、アメリカにおける若年成人の刑事手続の特則・特別の運用をめぐる議論、および、少年法適用年齢の引き上げ論)について文献調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究会がオンラインでの開催となり旅費の支出がなかったこと、および、アメリカ法の文献調査を本格的に開始しておらずその分の使用が2023年度に繰り越されたため。
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