研究課題/領域番号 |
21K01202
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
神例 康博 岡山大学, 法務学域, 教授 (40289335)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 経済刑法 / 経済犯罪 |
研究実績の概要 |
本年度は、2022年5月に開催された日本刑法学会第100回大会のワークショップ「経済刑法」(デジタルプラットフォーム事業者がもたらす競争政策上の諸問題と刑事規制)に向けて所要の準備を進めるなかで本研究の進展を図るとともに、ワークショップ修了後は、ワークショップでの質疑を踏まえ、研究をさらに深めた。 ワークショップでは、市場における経済活動に対する規制の状況について、市場の機能に着目してこれを侵害ないし危殆化する行為を規制しようとするものと、市場における他の競争事業者や消費者の具体的利益に着目してその侵害ないし危殆化を規制しようとするものとに大まかに分類可能であることを明らかにし、自己優遇や搾取行為など、デジタルプラットフォーム事業者(以下、DPFという。)がもたらす競争政策上の諸問題について刑事規制のあり方を考える場合にも、個々の問題の経済犯罪規制における理論的位置づけを明らかにすることが肝要である、との視点を示した。そのうえで、DPFに対する刑事規制のあり方について、独占禁止法の運用をめぐる課題を明らかにしつつ、刑事立法の方向性について検討を行った。なお、研究の成果は、岡山大学法学会雑誌72巻3・4号に「デジタルプラットフォーム事業者による競争侵害行為と刑事規制-独占禁止法の罰則の検討を中心に-」として掲載した。 DPFに対する刑事規制をどのように考えるかについては、「経済刑法」の体系的整序を図り、解釈論と立法論とを接続する経済刑法の統一的視座を明らかにすることにより、経済活動の規制の領域における刑事規制の導入基準を明らかにする、という本研究の意義が正面から問われており、経済刑法における法益論の意義、行為規制の比例性を含めた行為規範の正当化基準(刑事立法のあり方)、行為規範の不確定性をめぐる問題も含め、個別経済刑罰法規の解釈論的諸問題の検討を通して、研究をさらに深化させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き、本研究の目的を踏まえて、経済刑法全般にかかわる総論研究と個別の経済刑法罰則に関する各論研究を並行して行った。また、本年度は、日本刑法学会大会ワークショップにおける共同研究において、デジタルプラットフォーム事業者がもたらす競争政策上の諸問題と刑事規制という最先端の事案を素材として経済犯罪規制の課題を検討することにより、本研究を深化させるとともに、本研究の次につながる課題も見とおすことができたと認識している。本共同研究で得た知見を踏まえ、引き続き、研究を深化させたい。 もっとも、文献研究については滞りなく進んでいるものの、昨年度に引き続き、コロナ禍の影響により出張を伴う調査研究は実施できなかった。2022年度に予定していた国外調査についても、現下の国際情勢に鑑み延期した。現地に赴いての調査研究は適わなかったものの、国外研究、国内研究ともに、メールを利用した意見交換を行うことにより、可能な限り研究の遅れを生じないように努めたつもりであるが、調査研究を通した課題の抽出とその分析を行うことができていないという点では、進捗に遅れを生じているように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
既述のように、この2年間、調査研究を十分にできていない。文献研究だけでは明らかにできない課題を明らかにし、本研究をさらに深化させることが本年度の課題となる。 本年度はドイツにおける国外調査を予定している他、国内での調査研究も積極的に行う予定である。また、この2年間の研究を経て、本研究の次につなげるべき研究課題も明らかになりつつあると認識している。 2023年度は、本研究の締めくくりを見据えつつ、同時に、次に向けた課題を明確化しつつ、研究に取り組みたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、出張を伴う調査研究ができなかったため、旅費が全額未執行となった。国外調査及び国内調査については、本年度に実施する方向で準備を進めている。
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