研究課題/領域番号 |
21K01208
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
平岡 義博 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 上席研究員 (00786444)
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研究分担者 |
稲葉 光行 立命館大学, 政策科学部, 教授 (80309096)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 科学的証拠 / 信頼性 / 視察研究 / PCASTレポート / アンケート調査 / 市民参加 |
研究実績の概要 |
2023年6月、一般科学者100名について、科学的証拠の信頼性および裁判への参加意欲についてアンケート調査を実施した。その結果、各種の科学鑑定について信頼度が高かったのはDNA型と指紋鑑定、最も低かったのがポリグラフ検査で、前年に実施した一般人・法律家にたいする同様のアンケートと同様の傾向が得られた。一般科学者の裁判等への参加については、半数以上の人が参加する意欲を示し、個人的な予想より多いことが示された。 2023年12月台湾の最高検察庁法医研究所、警察庁刑事鑑識センター、台北警察局刑事鑑識センターへの視察を実施した。台湾では日本の法科学研究所と異なり、最高機関の法科学研究所を含め各研究所が分担して日常的な鑑定が実施されていた。検察庁にも法科学研究所が存在し、必要に応じてチェックする体制があった。 2024年3月に著書「形態比較鑑定の科学的有効性の確保」を出版した。これは、米国の大統領諮問委員会が法科学のありかたについて大統領に諮問したレポート(PCASTレポート)の翻訳と解説である。このレポートは科学的証拠を適正に捜査・裁判に活用する上での問題点と施策を述べている。 以上の研究と、これまでの韓国視察研究を通じて明らかになったことは、我が国の法科学は韓国・台湾を含む世界標準的なレベルに達しておらず、PCASTが示す捜査・裁判における科学的証拠を適正に活用できるレベルにも達していない、という点である。幸い、一般科学者の半数以上が司法に参加する姿勢を示していることから、法学者や司法関係者だけでの議論ではなく、市民の参加により、刑事司法の在り方を模索していく必要が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに2度のアンケート調査を実施し、市民がいわゆる「科捜研の女」のようなドラマ影響されず、比較的等身大に科学鑑定を評価してること、また、半数以上の一般科学者が司法に参加する意欲を示していることが判明し、そのまとめを論文誌に投稿する予定である。 また、これまで米国への2度の視察で、我が国の法科学が遅れていることを痛感したが、この研究で韓国や台湾の法科学を視察し、遅れをとっていることを実感した。今後、比較研究の成果として論文を作成する予定である。 著書「形態比較鑑定の科学的有効性の確保」は、この研究のテーマである「科学的証拠を有効に活用」するための施策を述べたもので、法律と科学の係りを明確にした点で重要なレポートである。今後、各方面からの批評を待ちたい。
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今後の研究の推進方策 |
法科学に関するアンケート調査では、さらに統計学的な検討を行い、裁判への市民参加だけでなく、法科学分野に一般市民・研究者の参加があった場合の長所・短所の評価を検討する。 海外視察については、これまでの日韓台の視察結果を報告するシンポジウムを企画中である。また、韓国の警察庁・検察庁の刑事捜査の状況が不明であるため、これら機関への視察を本年度中に実施すべく検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
[次年度使用額が生じた理由]コロナ禍の3年間で学内における渡航制限があり、研究メンバーの海外視察が困難であったこと。また、研究分担者の学内における役職業務が過重となり、十分な研究ができなかったこと、等による。 [今年度の使用計画]昨年度に引き続き、韓国の刑事捜査およびサイバー犯罪情勢の視察調査を9月中に実施すべく調整を進めている。また、日韓台の法科学についての報告会を開催し、情報を発信する予定である。
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