2023年度は9月のドイツ出張によってドイツの「保安監置」制度の現状と欧州人権条約との調整、刑罰との兼ね合いについての調査を深め、これが純粋な「保安」的措置から「治療」を必須とする医療的な措置に変貌しつつあることを確認した。また、2024年2月のドイツ出張によって、「保安監置」等の「保安処分」と「刑罰」との関係を、刑法典の構造、犯罪規定と刑罰規定の順序との関係で変容を遂げたことを解明している。このようなドイツ刑法における「刑罰」と「処分」の兼ね合いを、1974年の改正刑法草案以降の日本の措置入院制度や医療観察法と刑罰との関係と比較し、強制医療を医療法にまとめ上げている日本法の調書を確認した。以上の研究成果のうち、「刑罰」と「保安処分」との関係については、立命館法学411=412号に「『保安』処分からみた『刑』法」と題して論説として公刊しており、また、刑法典の構造転換については、2024年度に論説として公刊する予定である。 3年間の研究機関を通じ、犯罪行動を予防するためには「刑罰」よりも効果の高い方法があり、かつ、それは「治療」としては強制医療の分野を司る医療法に位置づけるほうがよいことを確認した。また、これとの対比で、犯罪行動の予防ではなく「犯罪行動に応じた適切な処罰」を通じて社会の規範構造を維持する「刑罰」固有の機能を確認することに成功したと思われる。さらに、このような「刑罰」と「処分」その他の措置との関係を刑法典の中に位置づけるか否かが、刑法典における「犯罪」と「刑罰」の規定の順序にも影響していることを確認できた。
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