研究課題/領域番号 |
21K01211
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根本 尚徳 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30386528)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 差止請求権 / 回収請求 |
研究実績の概要 |
研究期間の1年目にあたる本年度は,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否(本研究の研究課題)に関して原理的・比較法的考察を円滑に進めていくのに必要な研究環境の整備と基礎的問題の検討とに注力した。 具体的には,第1に,上記研究課題に関連する邦語文献および外国語文献を幅広く検索し,その速やかな入手に努めた(ただし,本研究と並行して進めている,差止請求権に関する別の研究にも関連する文献については,後者の研究に関する研究費によって購入等することができたため,本研究に関しては予算の節約が叶った)。 第2に,本研究は,上記研究課題について,私法上の差止請求権に関する一般法理を踏まえて分析することをその重要な目的の1つとするものであることから,そのような一般法理に関する検討の一環として,①1つの違法な侵害に複数の主体が関与する場合における民法上の差止請求権の一般法理(当該請求権の一般的な発生要件・効果に関する基本枠組み)の解明に取り組んだ。さらに,同じく上記一般法理に関する分析の一環として,②違法な侵害の「差止め」=「不作為」をその効果とする差止請求権に基づき,被請求者(侵害者)に対して,一定の積極的な「作為」の実施を求めることの可否についても検討した。これらについては,それぞれすでに一定の知見を獲得しており,各々を論文にまとめる作業に現在,鋭意取り組んでいるところである。 第3に,上記研究課題に関するより具体的な分析として,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否・そのような請求の具体的内容および限界をめぐるドイツの議論(この点に関する近時の判例およびこれに反対する学説それぞれの見解の概要や論拠,特徴など)を整理し,これらの間における対立点とそのような対立点の由来や背景などの正確な把握に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度における諸研究の成果として,第一に,私法上の差止請求権の一般法理の一端,すなわち,①1つの侵害に複数の主体が関与する場合における差止請求権の一般原理,とりわわけ②他人の権利の第三者による違法な侵害(直接侵害)を仲介する者(間接侵害者)に対する差止請求権の一般的な要件および効果(それぞれに関する基本枠組み),さらには,③差止請求権の請求内容として被請求者(侵害者)に作為を請求することの可否に関して私見を固めることができた。そのため,次年度以降においては,これらを基にして,個別の法益ごとに,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否如何(そのような請求が当該法益について許されるべき具体的な要件の内容如何および許されるべき「回収」の具体的な内容如何)に関する検討を進めていくことが可能である。 第二に,本年度の研究成果として獲得されたドイツ法に関する知見(ドイツの判例・学説による議論の概要,見解の対立点やその由来・背景に関する理解)を分析の立脚点として据える(いわば座標の中心点に置くこと)によって,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否に関するドイツ法以外のヨーロッパ法に関する分析(後述するとおり,これを次年度における検討作業の中核の1つに位置付ける)を円滑に,かつ統一的に実施することができる。 さらに,以上の研究成果は,次年度以降において,我が国における同様の問題に関する考察を行うための準備としても有益である。 以上要するに,本年度の研究成果を基礎として,次年度以降における研究活動を着実に,またより一層深く,さらには多角的に進めるための基盤を整えることができた。そのため,本研究は「おおむね順調に進展している」ものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降においては,第一に,私法上の差止請求権の一般法理の探求を引き続き前進させる。具体的には,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否にとりわけ関連の深い論点である①差止請求権制度と契約法との一般的関係如何,②現在の侵害に対する「妨害排除」と将来の侵害に対する「妨害予防」との区別の是非如何とについて,それぞれ日本およびドイツにおける判例・学説を手がかりとしながら,原理的考察を試みる。 第二に,上記回収請求の可否に関するドイツ法以外のヨーロッパ法に関する分析に本格的に着手する。その際には,すでに獲得しているドイツ法に関する知見を基軸として,ドイツ法との差異の存否を明らかにし,特に差異が存在するときには,その原因を探るとともに,それぞれの特徴(利点と問題点となど)を分析する。 第三に,以上のような回収請求の要件や効果の具体的内容が,保護法益の性質や内容によって左右されるか否かについても,上述のようなヨーロッパ法に関する分析と並行して(当該分析の一環として)検討する。 第四に,特に次年度の後半においては,これらヨーロッパ法に関する検討の成果を基にして,日本における前記回収請求の可否について分析を開始する。 以上の諸作業のうち,第一から第三までのものを効率良く,かつ着実に進めるための方策として,ドイツ連邦共和国の研究機関に短期間滞在し,日本では入手することの困難な文献の検索に努めるとともに,本研究の研究課題に造詣の深い複数のドイツ人研究者と直接に面会して,その時点までに得られた研究成果を基に,意見交換を実施する。また,同様の目的から,上記第一から第四までのそれぞれの研究活動が各々,一定の成果を出した段階で,日本国内における複数の研究会において研究報告を実施し,当該成果に対する研究会参加者の批評を仰ぐ。 無論,研究期間全体を通じて,関連する文献資料の入手に力を注ぐ。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の研究課題に関する文献資料のうち,他の研究課題にも関連するものについては,後者の研究課題に関する研究費によって入手することができたため,その分だけ,本研究に関する研究費の支出を抑えることができた。 また,本年度,夏期と年度末とに2回,予定していたドイツ連邦共和国の研究機関における文献資料の探索および複数のドイツ人研究者との直接の面会・意見交換とを,コロナ・ウイルスの蔓延に伴う同国の入国制限などに鑑みて,ともに断念せざるを得なかった。それゆえ,これらの研究活動を実施するために確保していた予算(移動費・宿泊費・文献購入費・文献複写費・文献輸送費・謝金・その他)をすべて執行することができなかった。 次年度においては,以上のようなドイツ連邦共和国における諸活動を,今年度に実施することができなかったものをも含めて,是非とも精力的に実施したい。 さらに,万が一,そのような諸活動が残念ながら困難であるときには,これに代わるものとして,ドイツ法に関するオンライン・データベースを最大限に活用することを検討する(そのようなデータベースの利用には,相当の対価を支払わなければならない。また,複数のデータベースを利用する場合には,使用料の合計も高額なものとなることが見込まれる。効率的・効果的な利用に向けて,データベースの適切な選定などに細心の注意を払う)。
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