研究課題/領域番号 |
21K01211
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根本 尚徳 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30386528)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 差止請求権 / 回収請求 |
研究実績の概要 |
3年計画のうちの第2年目に当たる本年度は,第1に,前年度に引き続き,本研究の研究課題(差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否)に関連する邦語文献および外国語文献を幅広く収集するとともに,それらの整理と分析とに取り組んだ。 第2に,上記研究課題に関する近時のドイツにおける判例の展開およびそれを受けて行われている学説による議論のそれぞれを分析し,各の特徴や課題の把握に努めた。 第3に,上記研究課題に関する検討を進めるために不可欠の基礎作業として,私法上の差止請求権の効果に関する一般的・基礎的研究(特に,ドイツ法・日本法における差止請求権の一般法理〔効果論〕に関する比較法的・原理的考察),および契約法・損害賠償法に関する研究にも取り組んだ。 第4に,以上2つの研究の成果について,ドイツ人研究者(フランツ・ホフマン教授。エアランゲン・ニュルンベルク大学)と直接に面会した上で,聞き取り調査と意見交換とを実施した。具体的には,ドイツにおける私法上の差止請求権(妨害排除請求権・不作為請求権)の一般法理に関するホフマン教授の見解(2017年に,彼の教授資格請求論文においてその内容が詳しく提示されている)について疑問点などを質し,また,上記回収請求を原則として肯定するドイツの判例の立場について教授の評価を尋ねた。さらに,(日本における)上記回収請求の可否に関する現段階の私見を同教授に対して提示し,それに対する意見を求めた。 第5に,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否に関するヨーロッパ法(欧州共同体法および各国法)の現状を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否に関するドイツにおける近時の判例の概要(各判例の特徴や問題点,それら相互の関係)を詳しく検討し,さらに,それら一連の判例の展開を基に繰り広げられた学説による議論(特に,判例の立場に対して批判的な見解による主張)の要点をひととおり把握することができた。その結果,日本における上記回収請求の可否について分析するための基盤が形成された。 また,当該回収請求の可否如何に大きな影響を与えるところの私法上の差止請求権(妨害排除請求権・不作為請求権)の一般法理をめぐるドイツの最新の議論状況についても,理解を深めることができた。この点に関しては,特に,2017年にMohr Siebeck社からJus Privatumシリーズの一環として公表された,フランツ・ホフマン教授の教授資格請求論文(F. Hofmann, Unterlassungsanspruch als Rechtsbehelf (Mohr Siebeck, 2017))による各種の主張が注目される(またしたがって,この間,その内容の解析に努めてきたところ),2023年3月に,ホフマン教授との直接の面会が叶い,同教授の不作為請求権理論について意見交換をする機会を持つことができた。そして,その結果,上記教授資格請求論文の検討によって生じた疑問点などを解消することができた(合わせて,日本における私法上の差止請求権の一般原理に関する私見の妥当性を再検討することができた)。
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今後の研究の推進方策 |
3年間の研究期間の最終年度に当たる本年度においては,過去2年間における研究活動(ドイツ法・ヨーロッパ法における,差止請求権に基づく「違法な商品」の回収請求の可否に関する議論の整理・分析=比較法的検討)を基に,日本における当該請求の可否について考察し,その成果を,ドイツ法・ヨーロッパ法に関するものと合わせて1つの論文として完成することを目指す。 このような論文の執筆作業を円滑かつ効率的に進めるために,前半の6ヶ月の間には,日本法の検討を一方で深めつつ,他方において,ドイツ法・ヨーロッパ法に関する研究成果について,日本国内の研究会で研究報告を行い,本研究課題に関心を持つ研究者との間で意見交換を実施する。 また,当該研究課題に関するドイツ・ヨーロッパの最新の動向を探り,必要に応じてそれを摂取すべく,ドイツの研究機関に短期間,実際に滞在し,関連する文献資料を調査するとともに,ドイツ人研究者との意見交換を行う。 後半の6ヶ月には,前半の6ヶ月の間に進めた日本法に関する検討の結果を論文にまとめる。その際にも,このような作業を的確かつ効率的に進めるために,当該結果に関する研究報告を日本国内の研究会において実施し,その錬磨に努める。 さらに,本年度の研究期間の全体を通じて,電子メールやオンライン会議の方法など適宜の方法を用いて,日本人研究者およびドイツ人研究者と密に連絡を取り,必要な助言や支援を受ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究計画として,当初は,日本国内における複数の研究会において,いわゆる対面形式で研究報告を実施することを予定し,そのために必要な費用(交通費や宿泊費)の支出を見込んでいた。 また,ドイツの研究機関に短期間,滞在し,ドイツ人研究者への聞き取りおよびドイツ人研究者との意見交換を実施するとともに,最新の文献資料の探索と収集とを行うことを計画し,そのために必要な費用(交通費や宿泊費,先方に対する謝金)の支出を予定していた。 しかし,いわゆるコロナ禍が依然として継続し,日本国内における移動および海外への渡航について慎重を要する状況がなお続いたことから,それらを断念せざるを得なかった。 次年度は,コロナ禍による事実上の制約も大幅に緩和される見込みである。そのため,その暁には,とりわけ,上記のようなドイツへの渡航を実現しうるものと思われる。その際には,これまで以上に,ドイツ人研究者への聞き取りやドイツ人研究者との意見交換を密に行い,研究活動のさらなる促進に努める所存である。
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