研究課題/領域番号 |
21K01219
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金子 敬明 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (80292811)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 信認義務 / 信託 |
研究実績の概要 |
2021年度は、イングランド法において信認関係がどのように理解されているかにつき検討を加えた。イングランド法では、受認者とは他人の財産に処分権限をもつことを引き受けた者(信託の受託者、任意代理、会社の取締役など)が典型例であるとされ、それが、財産の処分権限までは持たないが本人に対して助言をする者(典型例は事務弁護士とその顧客)にもあてはまるとされているが、しかし受認者だとされる者が負う義務がすべて信認義務であるとはされていない。つまり、受認者とされる者が負う義務には、信認義務であるものとそうでないものとがあり、信認義務の違反のみが、それに特有の効果、具体的にはエクイティ上のみ認められる救済、をもたらすと観念されている。 2021年度の研究において重要な視点として得られたのは、ある義務が信認義務であるとされることによってどのような効果を得ようとしているのかを意識しながら、当該義務が本当に信認義務であるといえるのかを慎重に検討する必要があるということである。たとえば、本人の目に隠れて秘かに取得した利得を吐き出す責任についていうと、受認者がその利得を第三者に移転したときにそれへの追跡が認められるかが盛んに議論されており、追跡が認められるとする説は、信認義務違反の効果として信託が擬制されるという。しかし、追跡が認められる結論を別の理屈で説明できるのであれば、特に信認義務違反という必要もないことになる。また、カナダにおいて、エクイティ上の義務違反が消滅時効にかからないことを利用して、娘が実父から受けた性的虐待が信認義務違反であると主張され、認められた事例もある。しかしこれも明らかに不法行為の時効の問題として検討すべきものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2021年度および2022年度の前半で、イングランドだけでなくその他の主要なコモンウェルス国において信認義務がどのように観念されているかを検討し終えることとなっていた。しかし、2021年度には、2020年度に引き続きオンライン授業への対応に忙殺されたため、イングランド法の検討がおおむね終わったにとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように研究の視座として重要な視点が得られたので、その線に沿って、基本的には当初の計画通りに検討作業を進めていきたい。上述のように計画よりも少し遅れているが、授業がほぼ正常化したことでもあり、2022年度は遅れを取り戻せるよう努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述のように2021年度の検討が計画通りには進まなかったため、購入すべき書籍を購入するには至らなかった。 2022年度は、日本国内での所蔵がない、イングランド以外のコモンウェルス諸国の書籍も積極的に購入していきたい。
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