最終年度では、イングランド法やコモンウェルス圏で発展している、契約(贈与を含む)当事者間での「過度な影響力(undue influence)」法理および「非良心的取引(unconscionable dealing)」法理について、前者を中心に扱った。これらの法理は、信認義務の関係にはないとされる者たち(取引当事者間)において登場するが、それにもかかわらず契約の一方当事者に、他方への配慮をする義務を課す(一方がその義務を果たさない場合に他方当事者は当該取引の効力の否定を主張することが認められるという形で現れる)という点において、信認義務の関係にあるとされる非対称的な二者間の関係ときわめて類似しており、これら二法理を信認義務によって説明する見解も少数ながら有力に主張されている。その説の当否を検討する中で、改めて信認義務というカテゴリーを切り出してくる意味はどこにあるのかを検討する上で、有用であった。 研究期間全体でみると、信認義務があるとされる二者の関係は非常に多様なものがあり(「過度な影響力」法理および「非良心的取引」法理もここに含めようとすれば尚更である)、しかも、その二者間において生じるとされる義務のすべてが信認義務であるかどうかにも対立があり、信認義務という概念を立てる意味について幻惑されるばかりであった。そのような状況の中で、どのような効果との関係で信認義務であるという主張がされ、認められているのかを意識した分析を加える必要があるという視点は、今後の導きの糸となるように感じられた。
|