2021・2022年の両年度においては、主として本研究の対象であるドイツにおける事業者間契約の約款規制緩和論(以下、「ドイツ規制緩和論」という。)に関する諸文献を収集し、読破していくことに注力したが、最終年度である2023年度は、この間に読み・整理した諸資料をもとに、研究論文の執筆に取り組んだ。当該論文は、阪大法学73巻6号から掲載を開始し、同74巻2号まで連載の予定である。 上記論文にまとめた研究期間全体を通じての研究成果として、総論的に以下の事が挙げられる。 ① ドイツ規制緩和論の経緯を整理した。 ドイツにおいては、2002年の債務法現代化による消費者法の強行法化に伴い、事業者間契約が約款規制の主たる対象になると考えられたこと、また、同時期のグローバリゼーションの進展により法秩序間の競争が意識されたことから、約款規制の緩和が論じられるようになった。2000年代は解釈論が中心であったが、2010年代になると立法論が主体となった。ドイツ法曹大会において規制緩和に賛同する決議が採択されるなど、一時は規制緩和を求める論調が拡大したが、約款法注釈書の執筆者らによる慎重論や規制緩和論者の主張に疑念を抱かせる新たな研究の登場により、議論は沈静化していった。 ② ドイツ規制緩和論の基本的な議論構図を明らかにした。 ドイツ規制緩和論が緩和の必要性を訴えていたのは、主として責任制限条項の規制である。これは、財やサービスの供給事業者が約款を使用する場面を想定したものである。これに対し、規制緩和反対派は、購入事業者が使用する購入約款における責任拡大条項(違約罰・損害賠償額の予定など、責任要件の緩和を図る条項)の問題を指摘した。この指摘は、購入事業者の市場支配力が増大しているドイツ経済の実態を反映するものであり、事業者間契約における約款規制の保護目的について多元的な議論の展開をもたらした。
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