研究課題/領域番号 |
21K01221
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 利一 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (60273869)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 私的整理 / 法的整理 / 倒産手続 / 裁判所の役割 / 私的整理の多数決 / クラムダウン |
研究実績の概要 |
本研究は、事業再生における英米法の経験を俯瞰・分析しつつ、私的整理と法的整理を架橋して、過剰債務の減免が適正かつ円滑に行われるための理論的基礎を探求することで、実効的なスキームの提案を目的としている。 21年度は、英米法の基本文献の収集に努めながら、アメリカ法については、ペンシルバニア大学のDavid Skeel教授からいただいた最新の論考(David Skeel Jr., Taking Stock of Chapter 11, 71 Syracuse L. Rev. 531 (2021))について、Skeel教授と意見交換を行った。イギリス法に関しては、Sarah Paterson, Corporate Reorganization Law and Forces of Change (OUP, 2020)を中心に、彼の地の私的整理に生じた限界について検討を行った。そして、これらの研究成果は、大阪弁護士会担保法改正検討委員会が主宰し、金融法務事情において連載された企画「担保法制への提言―実務家の視点からー」の藤本利一「第10回 倒産手続における流動型担保の取扱いー岐路に立つ事業再生―」金融法務事情2180号32頁~48頁(2022年2月)において活用された。金融実務の変化に応じて、担保権者による債務者企業に対する清算バイアスが強くなった場合には、法的整理の役割が重要になるということを中心に論じている。また、「東京大阪四会倒産法部シンポジウム:多数の消費者が債権者となる破産事件」においてコメントを行い、その内容がNBL1207号54頁~55頁(2021年12月)に掲載された。この文献では、多数消費者被害事件における司法の役割について言及している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
21年度は、アメリカ法に関して、ペンシルバニア大学のDavid Skeel教授と意見交換を行いながら、教授の最新の研究成果(David Skeel Jr., Taking Stock of Chapter 11, 71 Syracuse L. Rev. 531 (2021))に触れることができたことはよかった。彼の地でも、倒産実務の急激な変革の起こる中、倒産法基礎理論にも根本的な検討が行われるようになっており、その一端に触れることができたことは、研究所年度として好ましいことと評価できるものと思われる。イギリス法についても、かつてロンドンでインタビューをすることができた、Sarah Paterson准教授(LSE)の注目するべき研究成果(Corporate Reorganization Law and Forces of Change (OUP, 2020))を確認できたことは有意義であった。 日本法に関しても、大阪弁護士会の担保法改正の研究会に参加させていただけたことで、立法の状況を見ながら、それが倒産手続や私的整理に与える影響を考察できたこと、また、大阪倒産実務交流会において「DIP型会社更生事件」についての事例報告に対し、コメントの機会が与えられたことは、とても本研究にとって有意義であった。なお、このコメントについては、銀行法務21 884号40頁~41頁(2022年5月)において公表された。 現状、順調に研究を進められているともいえるが、とはいえ、コロナ禍もあり、とくにイギリス法の分析や、その研究者との交流が停滞している。感染状況のこともあり、予測の立てにくいことではあるが、イギリス、またアメリカ法の検討を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主要な要素について、それぞれコメントを付していく。 [法的整理の退潮]については、大阪地方裁判所第6民事部(倒産専門部)の裁判官に対して、インタビュー調査を行う。これは、大阪地裁における再建型倒産事件の現状と評価、また新たに取り組む方策などについて、確認をする予定である。ここでの調査結果をもとに、英米の倒産裁判官へのヒアリングが可能か、そのフィージビリティを探求する。 [過剰債務の減免――私的整理の多数決]については、近時、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が策定され、適用が開始された。このガイドラインに関する研修や研究シンポジウムに参加しつつ、策定に関与した実務法曹と意見交換の機会を設定することを検討している。この成果を踏まえ、とくにイギリスにおける私的整理の現状について、彼の地の研究者と交流を行うつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、国外はもちろん、国内の出張、また調査研究インタビューの謝金を利用する機会がなかったため。
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