研究課題/領域番号 |
21K01221
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 利一 大阪大学, 大学院高等司法研究科, 教授 (60273869)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 倒産法 / 私的整理 / 多数決 / 法的整理 / 事業譲渡 / 清算価値保障原則 |
研究実績の概要 |
22年度は、引き続き、英米法の基本文献の収集に努めながら、アメリカ法については、ペンシルバニア大学のDavid Skeel教授との間で意見交換を行いつつ、23度4月における同教授との対面インタビュー調査の質問事項について、検討を進めた。 国内では、[法的整理の退潮]に抗うその私的整理に対する優越性を検討する関連研究として、藤本利一「社会経済危機に対する倒産手続の役割―米国タカタ事件を契機として」本間靖規先生古稀祝賀『手続保障論と現代民事手続法』953頁~984頁(信山社、2022年8月)を公表した。 大阪弁護士会司法委員会倒産法実務研究会・大阪倒産実務交流会において、実務法曹による事例報告に対し、研究コメントを行い、その成果として、藤本利一「倒産法のインセンティブ――DIP型会社更生手続を通して」銀行法務21 884号40頁~41頁(2022年5月)、藤本利一「破産手続における事業譲渡の活用」銀行法務21 890号22頁~23頁(2022年10月)を公表した。前者は、私的整理が機能不全に陥った場合の処理が問題となり、後者は、私的整理でも用いられるスキームである事業譲渡を考究したものである。 また、東京三弁護士会及び大阪弁護士会の四会の倒産法部共催による、東京大阪四会倒産法部シンポジウム(四会シンポ)「事業再生における清算価値保障原則に関連する諸問題~コロナ禍で顕在化した実務的問題を踏まえ~」において、総括コメント「清算価値保障原則の意義と役割」を担当した(2023年3月)。これは、法的整理と私的整理それぞれにおける同原則の適用関係を論じたものである。なお、この成果はNBLに掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内の実務法曹との研究や意見交換については、大阪弁護士会司法委員会倒産法実務研究会・大阪倒産実務交流会への参加や、東京三弁護士会及び大阪弁護士会の四会の倒産法部共催による、東京大阪四会倒産法部シンポジウム(四会シンポ)「事業再生における清算価値保障原則に関連する諸問題~コロナ禍で顕在化した実務的問題を踏まえ~」への総括コメントを行ったことから、一定程度、意見交換や情報収集ができた。 また、アメリカ法の調査およびその準備については、ペンシルバニア大学のDavid Skeel教授の協力のもと、それなりに進めることができ、23年度4月における同大学での対面でのインタビュー調査の準備を行うことができた。 しかしながら、所属する研究科内の職務として、コロナ禍での授業実施等を管理しつつ、令和5年度から実施される新しい司法試験制度への組織対応を行わなければならず、十分な研究のための時間を採ることが難しいという事情があった。 そのため、国内実務法曹との交流やアメリカ法の調査およびその準備については、それなりに進展があったものの、イギリス法の分析や、その研究者との交流を十分に進めることができなかった。こうした停滞を打破することが23年度の課題の一つなる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主要な要素について、それぞれコメントを付していく。 [法的整理の退潮]については、米国倒産裁判官や弁護士へのインタビュー調査を行い、それをもとにして、国内の、とくに、倒産裁判官に対するインタビュー調査を行うよう、準備を進める。 [過剰債務の減免――私的整理の多数決]については、近時、包括担保制度の導入が提案され、また私的整理の多数決に対する立法論に対して、山本和彦教授(一橋大学)による論攷が公表される一方、導入に対する慎重な意見が一部の金融機関から提示されるなど、議論が熟しつつある。こうした議論の前提となる要素や議論枠組みを整理するため、やや遅れ気味の、イギリス法における私的整理の現状とについて、彼の地の研究者と交流を行うつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、国外はもちろん、国内の出張、また調査研究インタビューの謝金を利用する機会が想定よりも少なくなったため。
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