近年、デジタルプラットフォーム(DPF)を介した電子取引の興隆は、既存の市場構造を変化させており、日本の消費者法制に新たな問題を投げかけている。本研究では、DPFの責任をめぐる欧州連合(EU)法や欧州各加盟国(特にドイツ)の法状況や学術的な議論について調査・分析を行った。 2021年度は、日本国内で収集可能なEU及び日本におけるDPFをめぐる問題に関する資料の収集・整理・分析 を中心に作業を進めた。2022年度10月から、ドイツ・ハンブルクのマックス・プランク外国私法及び国際私法研究所にて、約1年半の在外研究の機会を得ることができた。このため、2022年度から2023年度は、同研究所を拠点として特に海外の必要な文献を調査・収集するとともに、当初の計画通り、ドイツ・オス ナブリュック大学のクリストフ・ブッシュ教授とも連携をとりながら調査を進めることができた。 本研究では、特に、2022年に成立したEU初の包括的なDPF規制であるデジタルサービス法規則の検討をした。従来、消費者、取引事業者及びDPF事業者の三角の契約構造のために、消費者と取引事業者間の関係についてDPF事業者の民事責任を問うことが難しかった。このため、EU法では、こうした取引構造においてDPF事業者が果たす役割に応じてDPF事業者自身が負うべき段階的な義務(特に情報提供義務と手続的公正さを確保する義務に集中)を課すという新たな規制枠組みが採用され、かつその義務違反について公的執行だけでなく、私的執行の可能性も認められた。本研究では、こうした新たな規制モデルの特徴と全体像を明らかにできたほか、DPF規制を含め、社会のデジタル化への対応に向けたEUの立法政策の指針も明らかにできた。この他、オンラインサブスクリプションにおける法的問題に対応するために2022年に改正されたドイツ民法の諸規定についても分析をした。
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