研究課題/領域番号 |
21K01238
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 哲生 北海道大学, 法学研究科, 教授 (80230572)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 約款 / 保険 |
研究実績の概要 |
契約に欠缺がある場合に、どのようにデフォルト・ルールを設定するかという観点は解釈の指針になるという考え方がある。欠缺を補充する任意規定をどのように定めるべきかという角度からみれば、任意規定を定める場合と任意規定がないとして解釈として欠缺を補充する場合で考え方は異ならないといえる。任意規定の定め方としては、1つには客観的規範、客観的秩序に則して任意規定を定めることが考えられる。次に、当事者の自律を基礎として、当事者の意思を推定して任意規定を定める、欠缺を補充するという考え方もある。たとえば、補充的契約解釈という議論では、契約に欠缺がある場合に、仮定的当事者意思により補充することの是非が論じられている。 次に、効率性の見地から任意規定を定めるという考え方がある。デフォルト・ルールを設定すると、そのルールから離れようとしないのだとすると、内容が実質的に効率的であるデフォルト・ルールが望ましいことになる。内容が効率的であるように解釈するべきであるとして、一般的な契約であれば、当事者が望んだ取引を行うことが効率的であると考えられるから、当事者の意思に即して解釈するべきことになる。しかし、保険約款では具体的な当事者意思はなく、また、客観的に効率性を判断することは困難であるから、効率的な内容を、保険契約の当事者が交渉した上で契約したとすると、そのような内容で契約するであろう内容、すなわち多数派が選択するであろう内容として、把握することが考えられる。 このような観点からすると、合理的期待保護の法理における合理的期待を次のように位置づける見解が参考になる。合理性とは、相互作用の公正な条件という考え方に表れているのであり、合理的期待は相互作用する相手の利益を無視した恣意的な期待ではない。契約者と保険者の両者の客観的に合理的な期待が常に考慮されるべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、約款による契約には実際には意思がないという見地からすると、どのような観点から解釈することになるかという一般論の研究を進めた。欠缺を補充するという観点からは任意規定の定め方と解釈は連続するという議論があり、そのことから、客観的規範、当事者の自律という観点からの仮定的当事者意思、効率性という見地からの多数派が選択するルールという3つの視座が得られた。当事者の自律という観点からの仮定的当事者意思という視座は、約款では意思がないという見地と整合しないところがあり、約款解釈の基準としては、客観的規範と多数派が選択するルールという視座が有用である。 このように一般的な視座を得ることができたので、このような視座に基づいて、できるだけ具体的な解釈基準を導くことが次の課題となる。その際に、多数派が選択するルールにつき、参考になりそうなものとして、アメリカにおける合理的期待保護法理をめぐる議論において、比較的最近有力に主張されている考え方として、相互作用する相手の利益を無視した恣意的な期待ではない、契約者と保険者の両者の客観的に合理的な期待を尊重するという視角が参考になる。 このような客観的規範、取引における客観的合理性という視角は、前年度にみたブラックホールをめぐる議論と接続するものである。このように着実に議論を進めることができており、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた、客観的規範、取引における客観的合理性という視角をもとに、これらの視角からした解釈を具体的に検討する。ここでは、日本の従来の裁判例も素材として、具体的に検討することを考えている。 また、日本で従来いわれてきた、顧客圏の平均的合理的な理解可能性に基づいて解釈するという考え方との具体的な差異を明らかにすることも試みる。 さらに、近時、ヨーロッパでは透明性の要請という考え方が一般化しており、その考え方が約款解釈の局面にどのような影響を与えるのかという点も検討したい。 これらの作業を踏まえて、具体的な解釈のあり方を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張を予定していた研究会等がオンラインで実施されたことにより、出張による支出が予定よりもかなり少なくなったことが主な理由で、次年度使用額が生じた。 次年度は出張も少しはある予定であり、また、必要な図書はかなり多数であるので、図書の購入でかなりの額はかかるものと考えられる。
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