研究課題/領域番号 |
21K01246
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
宮澤 俊昭 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30368279)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 行政作用と私法上の権利 / 私法と公法 / 漁業権 / 特許権 |
研究実績の概要 |
本年度は、共同漁業権・組合員行使権の法的性質について、これまでの立法の経緯および学説の状況を通時的に考察することを行った。 共同漁業権・組合員行使権に関する現行法の理解との関わりでは、特に昭和24年の漁業法改正と、昭和37年の漁業法改正、そして、共同漁業権・組合員行使権の法的性質について判断を示した最高裁判決である最判平成元年7月13日民集43巻7号866頁(以下「平成元年最判」と記述)がそれぞれ重要な意義を有する。そこで、これらを中心として、これまでの立法をめぐる議論の整理、平成元年最判の概要の整理、そしてそれぞれをめぐる学説の議論の整理をおこない、検討を加えた。その結果、次の点が明らかとなった。 まず、共同漁業権・組合員行使権をめぐっては、その歴史的淵源が入会権的権利であることについては最判平成元年7月13日民集43巻7号866頁(以下「平成元年最判」と記述)も認める通り共通の認識となっていること、平成元年最判はこれを社員権的権利として解するものとし、行政実務もそれを基礎として運用しているとされていること、および学説においてはなお入会権的権利と解する立場も有力に示されていることが改めて確認された。そのうえで、以上のような社員権的権利か入会権的権利か、という議論の図式に対して、長い間にわたり、いずれかに決することができないという指摘がなされ続けてきたことが注目される。この点に鑑みれば、共同漁業権に基づく組合員行使権を入会権的権利として理解するか、それとも社員権的権利として理解するか、という法的性質論のみに依拠して演繹的に解釈を導くのは単純にすぎるといえる。また、漁業法の制定・改正のそれぞれにおいて、共同漁業権・組合員行使権の捉え方が変化していることも確認された。この点からも、法的性質論のみに依拠して演繹的に解釈を導くことには慎重でなければならないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」において示した通り、本年度の研究からは、共同漁業権・組合員行使権に関して、その法的性質論のみに依拠して演繹的に解釈を導くことには慎重でなければならないことが明らかとなった。この研究成果から、共同漁業権・熊委員行使権について、その法的性質論以外の考察の視角に求められる要素も示される。すなわち、まず、明治34年漁業法制定以来積み重ねられてきた議論と首尾一貫性を保てる理論を構築することが求められる。また、漁業法の改正のたびに、その都度、理解が変遷してきていることにも鑑みれば、その内容の具体化に際しては、条文の解釈を基礎付けるだけでなく、立法過程の統制をも基礎付ける理論の構築も求められていることにも目を向ける必要がある。そして、ここまで長く議論が積み重ねてきながらも、なお議論が収束していないことからみれば、私法理論に内在的な視点だけでなく、外在的な視点からの議論を整理・検討する必要がある。 以上のような考察結果から、行政作用によって設定される私法上の権利である、という視角からの考察の必要性も次のようなかたちで具体的に基礎付けることができた。すなわち、まず、明治34年漁業法における地先専用漁業権・慣行専用漁業権は行政作用によって設定されることとされており、それ以降、現行漁業法の共同漁業権に至るまで変更されていないため、行政作用という要素は、明治34年漁業法制定から一貫したものと評価しうるところとなり、また、条文の文言から示される解釈を基礎付ける理論にとどまらない射程を持つ可能性も認められる。さらに、行政作用による設定という公法的要素がどのような意義をもつのか、という私法理論に外在的な視点からの議論の整理・検討が可能となる。 以上のような本年度の研究成果によって、次年度以降の研究、とくに特許権をめぐる議論の考察を行うための重要な基盤を形成することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、漁業権と同じく行政作用によって設定される特許権をめぐる議論の考察を行う。具体的には次の点に着目をして考察を進める。 第一は、特許を受ける権利をめぐる議論である。特許法29条1項柱書は、発明者が特許を受けることができる旨を定めているところ、知的財産法学においては、この条文に基づいて、発明者は、私法的性質と公法的性質を併せ持つ「特許を受ける権利」を有するとも解されており 、その設定において私法的契機と公法的契機の両面を有しているとも整理されている。 第二は、特許権に関しては、行政処分によって設定される特許権の無効を、特許庁の行う行政審判である特許無効審判においてではなく、民事訴訟である特許侵害訴訟において判断しうるか、という私法的性質と公法的性質の関係性にも関わりうる論点についての議論である 。 以上のような特許権をめぐる議論を、特許権が行政作用によって設定される私法上の権利である、という視角を含めて整理・検討することが、次年度の課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度もコロナ禍の影響で予定していた出張を行うことがほとんどできなかったため次年度使用額が生じた。次年度は、出張による資料収集等を可能な限り実施するとともに、十分な日程を取れない可能性も加味して、積極的に書籍等の購入を進める。
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