研究課題/領域番号 |
21K01249
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松中 学 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (20518039)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 会社法 / 新株発行 / 有利発行 / 不公正発行 |
研究実績の概要 |
本年度は、支配株主からのエクティ・ファイナンスの規律を検討するための準備作業として、まず、従来の有利発行と不公正発行の判断基準およびそれらの問題点を確認した。その中で、支配株主に関係するものに限らず、エクティ・ファイナンスにおける取締役の利益相反は必ずしも直接的に判例において意識されているわけではないことを確認した。また、有利発行規制は規制自体がそもそも利益相反の有無と必ずしも連動しているわけではない点も確認した(これは過少・過剰規制の両方につながる)。 研究計画では、本年度の課題として有利発行規制の検討を挙げていた。これとの関係では、裁判例では現在でもブックビルディングを受けた取締役(会)の判断過程を審査する必要性やその位置付けが明確ではないことが明らかになった。こうした判断過程を審査するのでなければ、利益相反への対処は難しい。また、非上場会社の新株発行について採用されているアートネイチャー事件最高裁判決の判断枠組みが上場会社の新株予約権・新株予約権付社債の有利発行にも応用されている点は、特に問題を引き起こす可能性があることを確認した。 他方、非上場会社自体については、支配株主からファイナンスを受ける必要性が相対的に高いことから、必ずしもそれだけでは取締役(会)の判断を疑わないことを意味する判断枠組みとして理解することもできる。仮にそうだとすると、非上場会社では事実上有利発行規制によってこうした利益相反(支配株主のみならず取締役自身の利害も含む)に対処することはせず、不公正発行のみで対処するようになるとも考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は、支配株主に対するエクイティの発行というよりも有利発行および不公正発行一般についてのものという側面が強くなった点は予定とやや異なる。しかし、裁判例における有利発行の判断基準自体に伴う問題や、支配株主に限らない利益相反の扱いが重要であることが明らかになったため、これ自体は自然である。そして、支配株主からのエクティ・ファイナンスについてもここから示唆が得られる以上、基本的に順調に進捗しているものといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、不公正発行を中心に扱う予定である。支配株主に対するエクイティの発行に伴う利益相反に対処する場合、必ずしも新株発行の「目的」を基準に不公正発行かどうかを考えるのは有益ではない。これ自体は主要目的ルールの限界として一般的にいえることであり、裁判例も主観的な「目的」の要素はあまり重視しなくなって久しい。そのため、現在の裁判例の判断基準に乗せるために不当な目的と正当な目的という枠組みに落ち着く議論を考えるとしても、実質的な議論は、新株発行の効果と必要性を中心に行うべきであると考えられる。 経営陣の利益相反が問題になる典型的な場面としては支配権維持が考えられてきたのに対して、支配株主からのエクイティ・ファイナンスの場合、効果・必要性の両面で経営陣自身の利益相反を伴う場面よりも複雑になると考えられる。例えば、支配株主の持株比率を一定程度まで高める効果を持つこと自体を常に問題だと捉えられるわけではない。こうした点にも注意しつつ、不公正発行を中心に検討を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により当初予定していた出張旅費の支出がなかったため。
|