研究課題/領域番号 |
21K01250
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松井 和彦 大阪大学, 大学院高等司法研究科, 教授 (50334743)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 契約不適合 / 追完 / 履行に代わる損害賠償 |
研究実績の概要 |
研究期間の2年目は、買主の追完に代わる損害賠償請求権と売主の追完利益との関係について、ドイツ法および国際物品売買契約に関する国連条約(CISG)の議論状況を大づかみに把握することに努めた。文献調査の結果、次のような大きな流れを把握することができた。 ドイツにおいては、瑕疵ある物の引渡しを理由とする買主の法的救済手段として、追完請求権、損害賠償請求権、代金減額権、契約解除権が定められているが、追完請求権および遅延賠償請求権を除き、原則として追完の催告を先行させることが要件と定められている。このことは、偶然の産物ではなく、2002年債務法改正の際に立法者が意識的にこのような建て付けにしたものである。 また、請負においては、注文者に自己修補権を認める規定が置かれているが、売買には同様の規定がない。これも偶然のことではなく、敢えてそのような規定を設けなかったことが確認された。 このような経緯から、2002年債務法改正後の判例は、買主が売主に追完の催告をすることなく直ちに自ら瑕疵を修補しその費用を損害賠償として請求することを否定している。学説の多くもこれを支持しているが、学説には異論も有力に主張されている。判例によれば、売主は、本来負担すべきであった瑕疵修補費用相当額の支出を免れるといった不当な利益を得る結果になるからである。そこで、学生には、事務管理、不当利得などの規定を適用ないし類推適用することで、売主が支出を免れた費用相当額を売買代金から控除することを認めるべきことが有力に主張されている。 もっとも、以上のようなドイツ法の議論は、追完の催告を先行させるべきことが明文で定められている状況を前提とするのであって、わが国の民法は、そのような条文構造を採っていない。このため、ドイツ法の議論をそのままわが国の解釈論に持ち込むことには慎重であるべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマについて、ドイツ法を大づかみに把握することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の3年目は、国際物品売買契約に関する国連条約(CISG)など国際取引規範において、この問題がどのように扱われているのかを調査し、分析を行う予定である。CISGは、わが国を含む多くの国が加盟している国際統一規範であり、わが国における2017年の民法(債権関係)改正の過程でもCISGがしばしば参照された重要な法規範である。このため、CISGがこの問題についてどのような規律を置いているのか、CISGの適用を受ける契約について、各国がどのような解釈を行っているのかを参照することは、本研究にとって不可欠であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染状況が好転しなかったため、出張に出かける機会を作ることができなかった。
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