研究課題/領域番号 |
21K01272
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
丸山 英二 神戸大学, 法学研究科, 名誉教授 (10030636)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 倫理審査 / IRB / コモン・ルール / Sarah Babb / 生命科学・医学系研究に関する倫理指針 |
研究実績の概要 |
令和3年度においては,2014年制定の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と2001年制定の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が統合され,2021年3月23日に告示された「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(生命科学指針)の内容について批判的に検討するとともに,生命科学指針で多機関共同研究の倫理審査に関して一括審査が原則化されたことを踏まえて,多施設研究について単一IRBによる審査を義務づけた米国の改正コモン・ルール(2017年1月告示,一括審査の部分に関しては2020年1月施行)をめぐる米国内での議論及び伝統的に同一国内の研究について一括審査を制度化している欧英の制度を調査し,さらにその過程においてIRB審査のあり方に対する米国でのCarl Schneider教授などの法学者,Sidney Halpern教授やSarah Babb教授などの社会学者,Robert Klitzman教授などの生命倫理学者らによる研究と改善の提言に関して検討を加えた。 医学研究に関するIRB審査の要件は,米国において1974年に制度化され,1991年に人を対象とする研究に適用される共通ルールとして制定されたコモン・ルールの中核的制度となって,2000年以降のわが国における研究倫理指針の策定作業においても参照されてきた。しかし,米国においては1990年代末にかけて研究不祥事の摘発が連続したことを背景に,2000年代初めにかけてその遵守が過度に求められ,議論が紛糾していたこと,その後,規制緩和と遵守支援体制が民間主導で進められ,民間機関によるIRB認証制度や実践的/学術的支援組織の誕生と発展,独立営利IRBの増加という動きが見られたことについて,実証的に把握することができた。 これらの知識を踏まえ,生命倫理指針の適用のあり方について述べる研究成果を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.Sarah Babb, Regulating Human Research (2020)により,米国の医学研究(広くは人を対象とする研究)のガバナンスにおいて中心的位置を占めるInstitutional Review Board(施設審査委員会,IRB)について,社会学的な見方について知見を得ることができた。その過程において,同書に引用されていた,Carl Schneider, The Censor's Hand (2015), Robert Klitzman, The Ethics Police? (2015), Sidney Halpern, Hybrid Design, Systemic Rigidity (2008), などを読み,これまで理想的な制度と認識していたIRBないし研究倫理審査委員会制度について,批判的観点から検討し,あわせて合衆国政府機関による規制のあり方の特徴について米国人による評価に接することができた。 2.2021年3月告示の生命科学指針で多機関共同研究に対する倫理審査が原則一括審査とされたことを踏まえ,2020年1月から連邦の補助を受ける多施設研究について単一IRBによる審査を義務づけた改正コモン・ルールとその下での倫理審査のあり方をめぐる米国での議論を参考にしながら,わが国における一括審査のあり方について,(臨床研究法下での実情も参照して)検討し,中間報告的に意見を述べた。 3.生命倫理,医事法学,医学関係の学会・研究会に積極的に参加し,それを通して,倫理審査委員会をはじめ医学研究の実情や医学研究に関する法令・指針が研究現場に及ぼしている影響について情報を収集した。 4.個人情報保護法2020年,2021年改正を踏まえた生命科学指針の改正について資料を収集し検討した。その成果となる論稿は未完成だが,これを解説するZoom動画を試作中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.Sarah Babb, Regulating Human Research (2020)で描写・分析・評価された米国のIRB制度について,Carl Schneider, Robert Klitzman, Sidney Halpernらの研究を踏まえて検討し,まずは,Babbの著書を紹介する小論を完成させたい。その上で,米国のIRB制度のあり方について自分なりの分析・評価を行い(その際には英米法学者の観点からの検討も行いたい)その結果を提示したい。 2.1の作業を行う際には,「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」などわが国における研究倫理指針策定の黎明期における作業が,米国の制度などを参照しながら始められた2000年代前半における米国内の議論状況について,一次資料も参照して検討したい。 3.多機関共同研究計画の原則一括倫理審査に関しては,多施設研究について単一IRBによる審査を義務づけた2020年施行の改正コモン・ルールとその下での倫理審査のあり方をめぐる米国での議論を参考にして,わが国における一括審査のあり方について,2021年11月開催の日本生命倫理学会第33回年次大会で中間報告的な発表を行った。この内容についてさらに検討を進め,論稿にまとめたい。 4.個人情報保護法2020年,2021年改正を踏まえ,2022年3月10日に告示された生命科学指針の改正について批判的に検討し,これと指針改正の背景にある個人情報保護法改正について解説するZoom動画を完成させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を計画していた海外及び国内開催予定の医事法,生命倫理,医学関係の学会・研究会に新型コロナウイルス蔓延によって中止・延期になったり,オンライン開催になったりしたものがあったため,その参加のために予定していた旅費(不開催の場合には,参加費も)について支出できないものが生じ,次年度使用額が生じた。 2022年度には新型コロナウイルス蔓延が縮小し,国際学会の対面開催も復活する動きが見られるので,次年度使用額はその参加のための費用と,コロナ終息後も学会・研究会等の開催方法として残ると思われるオンライン・ミーティングに安定的に参加するために必要なパソコン関連機器の購入に充てることを計画している。
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備考 |
医と法のホームページ 医のページ 報告・講演記録には,丸山が行った講演・研修に使用したスライドパワポのPDFファイルを掲出している。
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