研究課題/領域番号 |
21K01278
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
遠井 朗子 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (70438365)
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研究分担者 |
眞田 康弘 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 客員主任研究員(研究院客員准教授) (70572684)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | CITES / 持続可能な利用 / 正当性 / 生物多様性 / 動物福祉 |
研究実績の概要 |
スタートアップ企画等は、諸事情により実施することができなかったが、関連業績において、以下の点を明らかにした。 CITESは絶滅が危惧される野生動植物種の過度な利用を防止するため、その国際取引を規制する条約であるが、利用を一律に禁止するわけではなく、保存と利用のバランスは当初より論争の的であった。1990年代以降、希少な野生生物を自国の戦略的資源と位置付けて活発な交渉を展開してきた原産国の主張が認められ、「持続可能な利用」の主流化が図られて、取引量が増大し、精緻な実施メカニズムが構築されてきた。 しかし、近年、利用に伴うリスクを勘案し、利用を制限する方向へと論調が再び変化している。第一に、国際的な評価報告書、政策文書等においては、生物多様性の損失が人類の存立基盤を脅かすおそれのある重大な社会経済リスクとなるとの認識が共有される一方で、これまでの国際的取組みは十分な成果を上げていないとの評価が確立していることを指摘した。このような危機認識の高まりを背景として、CITESにおいても利用の推進を見直して、厳格な管理が正当化される可能性がある。この状況の下、ニホンウナギについては、資源量の枯渇が科学的に認められているため、仮に附属書掲載提案がなされた場合、採択される可能性は高いことを指摘した。第二に、新型コロナウィルス感染症のパンデミックを契機として、種の保全、動物福祉、人の健康、生態系保全の統合を提言するOne Health/One Welfareアプローチが注目を集めている。CITESにおいても、従来の規制基準・手順とは異なる方法で生きた野生動物の取引に厳格な条件を付し、実質的に取引禁止の効果をもたらす決定が採択された経緯を、統合アプローチの受容という観点から評価し、この点からみた日本の国内実施の課題についても指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響が続く中、条約実施機関の会議はオンライン形式又はハイブリッド方式での開催となり、会議への参加に付随して行う調査(会議参加者へのインタビュー調査、意見交換、サイドイベントへの参加と参加者らの観察等)を実施することができず、議案提出の背景や今後の見通し等について、掘り下げた分析を行うことができなかった。 同様に、新型コロナウィルス感染対策のため業務量が拡大したことに伴って、研究課題の基盤的調査の計画立案が遅れ、具体的な調査は進展していない。
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今後の研究の推進方策 |
オンライン会議等で把握した最新動向の分析を踏まえ、併せて生物多様性条約におけるポスト2020年目標の採択、IPES評価プロセス等の隣接領域の動向についても評価・分析を行って、「生物多様性」に関する議論の文脈の変化を考慮に入れて、本件課題の再定義を行う。特に、先住民族および地域共同体の関与については、保護地域における議論の進展を体系的に整理し、CITESにおける参加の議論と対比を行うための枠組みを検討する。 野生生物の保全と動物福祉、人の健康、生態系保全を統合的に捉え、野生生物の取引の抑制を求める主張については、それぞれの分野の専門家の助言・指導を得ることで、研究を推進する。野生生物を戦略的資源と捉えて、制度批判を強めている南部アフリカ諸国の主張の理解を深めるためには、海外の研究者、専門家等のインタビュー調査を実施する。 野生生物の密猟・違法取引については、UNDOCの第2次報告書を基礎として、緩やかな国際協力の枠組みの実態把握を行う。 研究協力者と、進捗状況の共有及びその検討を定期的に実施し、併せて調査研究成果の公表の場を適宜、確保することで、研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の感染拡大が継続していたため、学会及び調査対象であるCITESの会議は全てオンライン形式での開催となり、長距離の移動を伴う調査も困難であったため、旅費が不要となった。この間、オンライン会議への出席、オープン・アクセスの公的資料、購入済みの図書等を活用して研究活動を進めたため、予定していた金額を執行できず、未執行分は、次年度に繰り越すこととした。
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備考 |
真田康弘「世界の漁業と日本の漁業の現状と今後」『持続可能な漁業とシーフード(生物多様性国家戦略を考えるフォーラム2022-2030<ネイチャーポジティブ>を目指して)』、IUCN日本委員会主催オンラインシンポジウム、2022年3月18日 真田康弘「行き詰まる魚の多国間管理 日本は襟元正して〝旗振り役〟を」『Wedge』2022年3月号、36-39頁
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