研究課題/領域番号 |
21K01278
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
遠井 朗子 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (70438365)
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研究分担者 |
眞田 康弘 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 客員主任研究員(研究院客員准教授) (70572684)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | CITES / 海産種 / 持続可能な利用 / エピステミック・コミュニティ / IPLCs |
研究実績の概要 |
2022年11月に開催されたCoP19に参加して審議を傍聴し、サイドイベントへの参加及び関係者との意見交換により情報収集を行った。調査結果は研究協力者であるJWCS主催のウェビナー及びニューズレターへの投稿により公表した。2023年3月、IUCNサメ専門家グループの科学者を招聘して「CITESにおけるサメの保全と持続可能な利用」に関する公開ワークショップを開催し、附属書掲載の根拠となる科学的評価、掲載の意義、実施の枠組み及び日本の対応について検討を行った。その後、IUCNの専門家と共に主要な水揚げ地の現地調査を行い、加工事業者と意見交換を行った。これらの調査と検討により、メジロザメ科の一括掲載については、IUCNサメ専門家グループがエピステミック・コミュニティとして存在感を示しており、原産国・地域はこれらの科学者集団と協力関係を築くことで規制の正当性を主張し、成功を収めたことが明らかとなった。科学者らは実施プロセスで多様なアクターの関与を促すための支援も行い、典型的なエピステミック・コミュニティの役割を超えて、アドヴォカシー・コアリションの一翼を担うことも明らかとなった。しかし、日本はこのような科学者ネットワークとは接触せず、FAOを介して対抗言説の形成を試みて挫折している。国内の利害関係者は国際的な規制管理に依然として強い警戒心を抱いているが、政府が一元的に情報管理を行う体制が内外の情報ギャップを引き起こしている可能性がある。地域共同体及び先住民族(IPLCs)の生活・生業の考慮という課題については、方向性が見出されていない。しかし、国際的な参加の制度は民主的正統性や実効性の観点から疑義があるため、国内で参加を確保することが望ましいとの共通認識が生じつつある。この点については、運営規則(OG)にIPLCsの参加を包括的に規定するに至った世界遺産条約の実行が参照可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CoP19におけるメジロザメ科の附属書IIへの一括掲載の背景には、科学的知見の集積と科学者ネットワークの積極的関与があったことが、ワークショップにより明らかとなった。また、科学者ネットワークが実施プロセスの体系的な枠組みを整理し、積極的に関与する意思を示していることも把握した。CITESにおける海産種規制については、メジロザメ科の附属書IIへの一括掲載の採択により、規制の正当性を巡る論争から、実効的な規制を実現するための多元的な実施プロセスの検討へと議論の焦点が移行しつつある。この間の交渉過程の実証的分析と、日本の影響力の低下の要因分析については分担者がとりまとめを進めている。一方、IPLCsの参加、生活・生業の考慮という課題が、野生生物の「持続可能な利用」を巡る論争にどのような影響を及ぼしているか、という点に関する理論的検討は遅れている。CITESに関する新たな研究の視座を参照しつつ、他の環境レジームとの比較検討を踏まえて、検討を継続する必要がある。野生生物犯罪への対処という言説が国際的な取引規制に及ぼす影響と、各国の国内法及び法執行に与えた影響の検討は遅れている。さらに、日本の国内実施プロセスの検討による仮説の検証も今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年3月に実施したワークショップの開催記録をとりまとめて、報告書として公表する。これを手がかりとして、海産種規制に関する科学者ネットワークと原産国・地域との協力関係の構築や、規制と実施プロセスとの関連性について実証分析と理論的整理を試みる。IPLCsの参加の正当性の論拠、社会経済的要因の考慮と規制の実効性との関係についても、文献調査により検討を進める。野生生物犯罪の国内法への影響についても文献調査を継続し、人獣共通感染症対策に関する新たな条約を巡る議論についても検討を続け、これらの横断的な課題について、科学者・専門家が果たす役割と関与の方法について、共通の枠組みを検討する。日本国内の実施体制の課題については、分担者及び協力者と研究会を開催し、象牙取引市場の閉鎖及び国際稀少種規制の強化の方法について、検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度はCOVID-19の影響もあり、会議は全てオンラインで開催されていたため、旅費を支出する必要が生じなかった。本年度は会議の参加、国際ワークショップの開催、国内現地調査等で予算の執行を行ったが、前年度からの繰り越し金もあったため、残額が生じた。次年度には研究会の開催及び調査費用として使用する予定である。
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備考 |
眞田康弘(2022)「水棲種の附属書掲載提案における議論」JWCS通信、97号、3-6頁。 遠井朗子(2022)「CITESにおける『持続可能な利用』という言説の行方と二つの多様性について」JWCS通信、97号、7-11頁。 真田康弘(2022年7月)「闇で流れる「ウナギロンダリング」 土用の丑の日に未来はあるか」『ITmeidaビジネスオンライン』(オンラインマガジン)
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