最終年度である令和5年度は、前年度に引き続き、著作権契約法の導入に関する正当化根拠論を対象とした理論的考察を行うとともに、日欧米における著作権契約法に関する法制度を比較分析し、著作権法の目的である文化の発展に寄与するための最適な法制度について論文にまとめて出版した。 海外の法制度の比較分析については、最新の議論状況を調査するために、イギリスとフランスに出張し、現地で資料収集およびインタビューを実施した。また、サバティカルを利用して、2022年9月から2023年8月まで台湾大学で在外研究を行い、現地の学者や弁護士から台湾における著作権契約法や運用状況について情報提供や助言を受けた。 研究の成果として、アメリカの終了権制度にかかる新たな正当化根拠に関する分析・考察を行った論文「米国における終了権制度」を発表した。この論文はアメリカにおいてPaul Heald教授が実施した終了権制度の実証研究の成果をもとに執筆したもので、終了権制度は作品の死蔵を防止する効果があることを示した。 さらに、プロデューサーと実演家の収入格差の問題(バリューギャップ)を解消するためにベルギーやスペインで導入されている報酬請求権(許諾権の譲渡後に権利者に報酬請求権が残るという権利。残留報酬請求権という)を紹介し、一定の解決策を示唆した論文「ストリーム配信におけるValue Gap問題に関する一考察」を発表した。 最後にエンタテインメント・ビジネス全般にわたる契約実態について、調査・研究を実施し、各ビジネス分野における網羅的な分析・考察を行った。その成果として、各ビジネス分野における契約上の問題点を指摘し、その解決策を提示した『エンターテインメント・ビジネス~産業構造と契約実務~』という書籍を公表した。
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