研究課題/領域番号 |
21K01285
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
上野 達弘 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80338574)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 著作権契約法 / 著作者契約法 / 契約法 |
研究実績の概要 |
今年度は、著作権法における契約法(「著作権契約法」)について、欧州指令(2019年)と、これを実施したドイツ法改正(2021年)およびフランス法改正(2021年)を中心に、その内容を検討した。 欧州指令については、著作者・実演家がその著作物・実演について権利譲渡またはライセンスを行う場合、適正かつ比例的な報酬を受ける権利があることことを定めた相当・比例報酬原則(18条)、そのために必要な情報を請求できる透明性義務(19条)、当初合意された報酬が収益に比して「著しく低い」場合に追加の報酬を請求できる「契約調整メカニズム」(20条)、著作物等の利用がなされない場合における撤回権(22条)について、草案から成立後における議論を参照して意義と課題を分析した。 こうした検討をもとに、2021年12月11日、ALAIジャパンにおいて「欧州デジタル単一市場指令における『著作権契約法』」というシンポジウムを開催し、研究代表者(上野)が司会を務め、特に相当・比例報酬原則および撤回権について議論を行った。この成果は、2022年夏には学会誌として出版予定である。 また、日本の現行著作権法には、著作者・実演家を保護する契約法規定をほとんど持たないのであるが、しかしその立法過程においては、契約法規定について一定の議論があったことを当時の立法資料を探索して検討した。特に、著作権制度審議会の第一小委員会が、当初、出版契約に関する準則として、報酬支払義務や印税方式、あるいは、製作部数・販売部数等出版の状況を報告する義務を提案していたものの、その後の審議において見送られた経緯などを明らかにした。 以上のような検討をもとに、2022年5月の著作権法学会では、研究代表者(上野)が司会を務めて「著作権法における契約法」というシンポジウムを開催する予定であり、これに向けた準備会合を2021年度内に3回開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、基本的には研究代表者個人の研究として、本課題の考察を進める予定であったが、著作権法に関する代表的な2つの学会(ALAIジャパン〔2021年12月〕、著作権法学会〔2022年5月〕)の両方で、本課題をテーマとしたシンポジウムを開催することになり、その両方において研究代表者が司会を務めることとなり、それぞれ3名ずつの研究者と研究を深めることができた。シンポジウムに向けて、複数の準備会合が開かれ、そのために各人が準備を深めるのみならず、お互いの研究発表から多くの示唆を得ることができた。このようなことは、当初の計画では必ずしも予定していなかったことである。以上のことからすれば、2021年度の進捗状況だけを見ても、すでに「当初の計画以上に進展している」というに相応しいものと考えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、2つの学会で本課題をテーマとするシンポジウムを開催したことから、2022年度以降も、他の研究者とともに本課題に関する研究を深め、その成果を少なくとも2つの学会誌において発表するほか、これとは別に、少なくとも2本の論文にまとめて2022年度中に公表する予定である。 他方、海外調査については、コロナ禍のために、2021年度は予定通り行うことができなかったが、2022年度は、内外の状況も改善されてきたため、準備を尽くした上で可能な限りこれを実行し、これによって本研究課題の主眼である比較法研究についても一層の推進を図る所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、周知のように、新型コロナウィルスの感染拡大により、わが国において緊急事態宣言が常態化し、また、研究代表者の所属大学においても海外出張に関して極めて厳しい条件を課していたため、2021年9月に予定していたマドリード出張その他の海外出張を一度も行うことができず、2022年度以降に、状況を見ながらできる限り必要な海外出張を行う予定であり、そのために、次年度使用額が生じた次第である。
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