研究課題/領域番号 |
21K01291
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
田中 拓道 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20333586)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 福祉国家 / 新しい社会的リスク / 労働市場の二分化 / トレードオフ / ポスト工業化 |
研究実績の概要 |
本研究では、先進国の福祉国家再編において、「新しい社会的リスク」への対応が困難である要因を、新旧リスクへの対応、労働市場のインサイダーとアウトサイダーの選好への対応という二つのトレードオフに見出す。そのうえで、先進国の「トレードオフに対応する政治」の構造的差異を明らかにすることを目指す。2021年度の研究計画は、民主化とポスト工業化のタイミングと、新旧の社会的リスク対応のトレードオフとの関係を検討することであった。(1)2021年7月の世界政治学会では、独仏と日本の新旧社会的リスク対応の比較を行った。これらの国は制度的には保守主義レジームに共通する特徴を持ち、トレードオフが他のレジームに比べて深刻である。職業カテゴリーによる政策選好の違いを比較し、独仏ではリバタリアン的価値を持つ中産階級へと左派政党の支持層が移っているが、日本では職業カテゴリーと政策選好の対応が見いだしにくいことを指摘する英語報告を行った。コメントをもとに内容を修正した英語論文を準備中であり、2022年度中に国際雑誌に投稿する予定である。(2)民主化とポスト工業化のタイミングと新旧リスクとの関係については、日本を中心に、韓国、台湾との比較を含めた英語論文を執筆した。民主化とポスト工業化のタイミングが離れている日本において、もっとも大きなトレードオフが見いだせることを指摘した。内容を修正したうえで、2022年度中に海外雑誌に投稿する予定である。(3)1980年代から現在までの福祉国家研究の理論枠組みをふり返り、現在の課題を指摘する報告を、政治経済学・経済史学会の共通論題で行った。報告をもとにした論文を執筆した(2022年4月の『歴史と経済』に掲載)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に合わせておおむね研究は進展しているが、英語論文の公表については時間がかかっている。国際的な査読雑誌に投稿するか、それ以外の雑誌に投稿するかは、内容や掲載可能性に応じて判断したい。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は労働市場二分化に関する近年までの研究動向を整理したうえで、R. Hymanの労働組合組織に関する分類を援用し、トレードオフへの対応の違いを検討する。また本研究は先進国の福祉国家再編を直接のテーマとしているが、あわせて福祉国家の基礎理論的な研究も進める。2021年度は福祉国家研究の理論枠組みに関する総括と、権力資源論、資本主義の多様性論などにおける資本主義認識について検討を行った。2022年度は、資本主義と国家の関係、現代の社会的亀裂に関する検討を進め、本研究テーマと統合して単著へとまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は世界的なCovid-19の感染拡大状況を受けて、海外での現地調査を行うことができなかったため、その旅費分が次年度使用額となった。2022年度の夏以降に計画している海外調査の旅費として使用予定である。
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