研究課題/領域番号 |
21K01316
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西岡 晋 東北大学, 法学研究科, 教授 (20506919)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 福祉国家 / 家族政策 / 企業権力 / 政策過程 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本型福祉国家における家族政策の後進性に焦点を当て、なぜ日本では家族政策の発展が遅れたのか、その要因とメカニズムを政治学的に解明することにある。この重要な問いに取り組み、福祉国家の政治研究に対して理論的な貢献を果たそうとする。 この目的の達成に向け、2021年度は、主として先行研究の整理を行った。従来の福祉国家研究で大きな関心が払われてきたのが、組織化された労働運動と、労働組合を支持母体とする社会民主主義政党の役割である。福祉国家研究のなかで最も伝統的ともいえる理論的フレームワークである権力資源論は強力な労働組合とそれに支えられた社民政党の政権奪取が、北欧諸国に典型的な普遍主義的福祉国家の形成の重要な要因であったことを明らかにした。権力資源論は資本家階級と労働者階級との対立構造を前提とし、福祉国家の形成は後者の利害の反映であると理解するため、資本家階級たる使用者や経営者団体は福祉国家に敵対的な勢力として捉えることが通例である。これに対して、2000年代になり、使用者側の役割に焦点を当てる資本権力論が興隆する。資本権力論は、使用者側も実際には福祉国家制度の形成に対して常に反対するわけではなく、労働者の確保・維持やリスクの再分配といった観点からすると企業側にもメリットがあるため、それらの制度を支持する場合もあることを明らかにした。 しかしながら、これらの研究の多くは、「古い社会的リスク」に対応するための社会保障制度(失業保険や医療保険など)の形成・発展過程に焦点を当てているため、近年の福祉国家研究で論じられることの多い家族政策のような「新しい社会的リスク」向けの政策(家族政策など)の形成過程で、企業や使用者団体がどのような役割を果たしているのかは、必ずしも十分に明らかにされていない。 このように、先行研究の課題を詳らかにすることで、本研究の方向性を見定めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は新型コロナウイルスのパンデミックが終息せず、学術面だけでなく、社会・経済全体の活動の停滞状況が続いていたことに加えて、在外研究からの帰国の年に当たり、帰国に伴う諸々の作業に集中せざるを得なかった。また帰国前後に、当地で震度6を記録する地震が2度発生し、研究室の本が散乱するなど相当の影響が出たため、片づけに追われるなどした。こうした予期せぬ事情も加わり、研究時間を十分に確保することができなかった。そのため、研究状況はやや遅れていると言わざるを得ないが、次年度には、より迅速に研究を進められるよう万全を期したい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず先行研究の整理・検討を引き続き進め、分析枠組みの構築を行う。つぎに、家族政策の形成・決定過程に関する事例研究を行う。成果がまとまり次第、学会報告や論文投稿を行う。これらによって、研究目的の達成に向け着実に歩みを進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた大きな理由の一つは新型コロナウイルスの感染状況が終息せず、学会参加等に伴う旅費が発生しなかったことである。次年度使用額は、これらの学会への出席、報告等を目的としたもので、研究計画をさらに進めるために必要なものである。着実に予算執行を行えるよう研究を進めていく。
|